帰り道との出逢い
次の日、私たち家族は、不思議な人物と出会うことになる。
学校が休みの萌を連れて、家族3人で買い物に行った時の出来事だった。
私が1人トイレへ行き、用が終わって、手を洗っていると、隣の洗面台に、年配の女性がやってきた。
私は気にせず手を洗っていたが、ふと視線を感じて、顔を上げた。
鏡越しに、女性と目が合う。
化粧が異常に濃く、眉はつり上がっていて、口角が左にひどく歪んで…
目をそらすことが、出来なかった。
嫌な汗が出て、口が乾く。
『あなた、バラバラじゃあないの。』
女性は突然、そう言った。
笑うと、ますます唇が歪んだ。
背中に鳥肌が立つ。
すると、フイ、と踵を返し、彼女はトイレを出て行った。入り口で、私を迎えにきた萌と彼女がすれ違う。彼女は萌をジッと見つめると
『あら、まあ。そう。』
と納得した表情で、去って行った。
『ママ!?なにあの人!怖い!』
萌が私の腕にしがみつく。
『ね……怖いよね、なんなんだろ…』
嫌なモノを見た。そんな感じだった。
“バラバラ”って、どういう意味だろう?
まさか、私と萌のこと?
からだと心が、バラバラ?
『ママ、大丈夫?』
萌が心配して、私の目を覗き込んだ。
『うん、大丈夫、ビックリして』
ま、……いっか。
『ね~…』
『今日、アイス、食べる?』
萌はまた、私を覗き込む。今度は期待を込めたキラキラの目で。
『ヤスさん、なんて言うかな~?』
私は答える。
『萌、今日ストロベリーがいいなぁ~!ね?シングルでいいから。』
通路に出ると、本屋で立ち読みしているヤスさんが見えた。
萌が走り寄り、アイスに誘っている。
何度となくやりとりしたあと、ジャンケンが始まった。
『ジャンケンで萌が勝ったらアイス』
ということにでもなったのだろう。
あいこ。
また、あいこ。
あ、萌がチョキで勝った!
よし、私はチョコミントにしよう。
『負けたね』
私が笑うと、
『いや~、萌強いな!』
と、ヤスさんも笑った。
3人で、アイスを食べて帰った。
今夜はチキンカレーだ。
チキンがほろほろに崩れるまで煮よう。
虎奈さんが、カレーの隠し味用にブレンドしてくれた、コーヒーの粉をほんの少し、入れる。
付け合わせに、バナナヨーグルト、アスパラのサラダ。アスパラの時期は、そろそろ終わりかな。
カレーライスの時に飲む麦茶って、どうしてあんなに、美味しいのかな?
キッチンの窓に、萌の姿の自分が映る。
また、あの女性のことを思い出してしまう。
嫌なモノは早く忘れてしまいたいのに、心のどこかに、引っかかったままだ。忘れてしまっていいのだろうか、と考えている自分が不思議だった。
あの女性が、なにか重要な鍵を握っているような、微かな期待が、そこにはあった。
胸がざわざわと、うるさかった。




