始まり (1)
「ねぇ、これからどうするの?」
「ん?どうするって聞かれても…よし、レベ上げするか」
「……こんな状況でもレベ上げ?少しは困ったり途方に暮れたら?」
「そんなお前も慌ててないぞ」
「だって…夢にまで見たRPG世界だよ」
「まぁ、ネトゲ廃人の俺たちからすれば、リアルよりは何倍もマシか」
「じゃ、行こっか」
「そうだな」
そう言って走り出す俺たち。
まずは自己紹介でもするか。俺はプレイヤーネーム《シュウ》。現在レベル1。隣を走ってる女は妹の《ユイ》。同じくレベル1。
なぜこんな状況になったのかは、話が半年前へとさかのぼる。
俺たちはコアなネトゲプレイヤーだった。言い換えればネトゲ廃人。そんな俺たち-いや、全てのネトゲ廃人の注目を集めていたゲームがあった。タイトルは《アートオブセイバーズ》。
据え置きのゲーム機に代わり、ヘッドギアと呼ばれるハードを頭に被ってプレイヤーがゲーム世界に入るようになったのは、ほんの2年ほど前からだった。
しかしそんな高スペックを持っているにも関わらず、出されるゲームジャンルは教育系ばかり。ようやくMMORPGが出るとニュースで流れてからは、一時もネトゲ廃人の心を離さなかった。
発売の半年前、ゲームの最終チェックの目的でαテストが行われた。しかも、人数無制限。さらに、αテストを体験した人全員に半額で製品版を買う特典までついた。
これによって、約10万人がαテストに参加した。
そして今日は製品版の発売日だった。おそらくαテストを体験した人全員が《アートオブセイバーズ》を買っただろう。買った人全員が、いそいそと帰宅し家で起動しただろうし、実際帰宅する様子がニュースで流されたほどだ。
俺とユイもそんな中の一人(二人?)だった。起動して10分後、ホームタウン《スタートフロア》から狩りに行こうとした瞬間、
「にぃ、街から出れない」
「何言ってんの?そんなわけ……マジだ…」
「バグ?」
「おそらく」
「運営側に連絡するね」
「…いや、ちょっと待て。周りのヤツらがもうやったっぽい」
「え?」
「周り見てみ、ムダだって。第一に運営側と連絡取るボタンがないってさ」
「ウソっっ」
「いや、ウソじゃない。俺も確かめた」
「じゃあ何なの?」
「その質問には、私が答えよう」
突如、空から声が降ってきた。
周りのヤツらも一斉に上を向く。
「なんじゃありゃーっ」
隣の若者が言ったが、広場にいる10万人全ての気持ちを代弁していたと思う。
声の発生源は、死神、としか言い様がないものだった。
「私はGM、月村泰司。このゲームの制作者だ」
「マジかよ」
周りもざわめく。
「みんなはもう、運営側と連絡を取るボタンがないのは知っているな?同様にログアウトボタンもない」
その言葉を聞いてみんな一斉にメニューを開いた。俺も確認したが、無かった。
確か…他にログアウト方法は…
「他のログアウト方法を考えてるかもしれないがない」
そう、ない。
つまり俺たち10万人はゲーム世界に閉じ込められたわけだ。
「しかし、ログアウトはできる」
「どうやってだっ?答えろっ」
30代っぽいマジメそうな人が声をあげた。つれて、同様の声がいくつもあがる。
「それは、このゲームをクリアすること。つまりここから999層上の最深部にある《王城》のラスボスを倒すこと。それがたった一つのログアウト方法だ」
無理だ。俺は瞬間的に思ってしまった。
αテスト時には1ヶ月で10層しか行けなかった。単純計算でもクリアするまでには、100ヶ月-つまり3年かかる。
「ちなみに、このことは今リアルのニュースでも流れている。そして私は、すでに死んでいる。つまり、絶対にゲームクリアまでログアウトできない。なお、運営側とは連絡がとれない。が、バグもない。3回までならゲーム内でも死ねるが4回目は、リアルの死が待っている。せいぜい頑張ってくれまたえ」
そう言って死神は消えた。
その後は阿鼻叫喚の地獄だった。いきなり狂う者。泣き叫ぶ者。挙げ句の果てには、街を壊そうとする者まで現れた。
そして冒頭場面につながる。
タイトル見てわかると思いますが、あるラノベを真似て書いてみました