あなたはゾンビ?
「「えっ?」」
棺の中を開けると、ゾンビ化した人のような何とも言えない者と目が合い、思わずびっくりして尻餅をついた。ゾンビ化したような者の皮膚は、所々紫色や茶色で爛れ、気のせいだろうか?さっき声が聞こえたような?
ゾンビ化したような者から距離を取る。まさか最奥の部屋にボス?聞いてないよ。相手はゾンビかもしれないので、回復師の私と相性が良い。これは戦えるかも。杖を向けいつでも魔法が使えるように構える。
「待ってくれ!俺は戦う気はないよ」
ゾンビ化したような者は、両手を上げ降参のポーズをして棺から飛び出してきた。
「えっ…?しゃべった?」
話をしたとなると人間 ?ゾンビ化したような者の言葉に戸惑う。知力の高いモンスターだろうか? とりあえず杖をそのまま向けて、話をしてみよう。
「あなたは、ここのダンジョンのボスじゃないの?」
「ボス?ここはボスはいないよ」
ゾンビ化したような者は両手をあげたまま、今までの経緯を話し出した。
「俺は少し前に目を覚まして、ゾンビ化した自分に驚いているんだ。 毒を盛られて意識を手放す前は王族の普通の人間だ。今でも食事をとったり睡眠も取るし、決して人間を襲わない」
ゾンビ化したような男の服装は高そうな刺繍に光輝いた翡翠のペンダント。まさに王族の格好だ。嘘をついているようには見えないが、完全に信じきれない。どういう経緯でゾンビ化しているか分からないが、もしかするとゾンビになるかもしれない。急に襲われないように杖を構えたまま、私はダガーナイフで指先を切り ゾンビ化したような男に血のついた指先を近づける。しばらく時間が経ったが襲ってきそうもない。
「今は完全なゾンビではなさそうね」
ホッとしていると、背後から唸り声とともにガルガングが飛びかかってきた 。噛まれると思った瞬間 、聞きなれない呪文と共に激しい炎がガルガングを包んだ。古代魔法だろうか?すごい威力だ。
「助けていただきありがとうございます」
「いいえ。他の仲間の方はどちらに?」
私は1人でここに来た経緯をざっくり話した。ゾンビ化したような男は真剣に聞いてくれた。
「大変でしたね 。けど、お嬢さんは一人で冒険をすべきではないよ。世の中には、モンスター以外でも悪い人間や危ない場所で困っても一人だと助けを求められないことはある。防御魔法が使えたとしても危ないよ」
確かに冒険は危険がつきものだ。やっぱり諦めて違う道を探した方がいいのか。少し考えているとゾンビ化したような男が話しかけてきた。
「もし、よかったら一緒にパーティーを組まない?」
「えっ?」
思いがけない言葉に、私は顔上げた。
リンドさんという男性は日中、外に出ると体調が悪くなるらしい。行動は基本夜で。…ってまさしく アンデットですよ 。しかし、あの攻撃魔法は心強い。私の冒険者人生に一筋の光が見えたが、リンドさんのアンデッド化が進んで凶暴化したら、どうしよう。大体のアンデッドは回復魔法で対処出来るが、リンドさんはどうかと。とても悩む。一時悩んでいると、リンドさんから一つの提案があった。
「お試し期間として 1ヶ月だけ、パーティーを組まない?もし君が嫌だと思ったりしたら解散しても大丈夫だから」
悪い人でもなさそうだし。この行き詰まった私の冒険者人生も少しは良くなるかもしれない。お試しということでリンドさんとパーティーを組むことにした。
「改めまして、リンド・カルテッドだ。リンドと呼んでくれ」
リンドさんの名字のカルテットはまさしく王族の名前。名前は聞いたことあるようなないような…?見た目は所々変色し爛れているが、顔は整っており男らしさを感じさせる風貌だ。
「ミーナ・ルポルテです。よろしくお願いします」




