少女を誘拐?
目を覚ますと昼間になっていた。朝食を食べていないので、とてもお腹が空いている。隣の寝室を少し開けて見ると、リンドさんは薄い毛布を頭からかけて寝ていた。
服を着替えて外に出るとお祭りの準備がされていた。ペガサスでサーマンに着いたので予想より早く着いた。屋台や飾りの準備、お祭りでするパフォーマンスの練習など明後日の祭りに向けて町にいる人達は胸を弾ませていた。
私はまず情報収集と魔物などの換金のためサーマンの冒険者ギルドに向かった。
「魔物などの買い取りをお願いします」
旅の途中で倒したノペリモンキーや素材をお願いした。待っている最中、ギルドの掲示板を確認する。掲示板には昨日の湖の近くで虫の魔物の大量発生のことや注意喚起。また町での行方不明者続出中とのこと。仮装のお祭りは特に注意とあった。今回のお祭りでは何もなければ良いけど。
魔物などの買い取りはノペリモンキーと少しの素材だったので銅貨20枚と寂しい金額だった。
冒険者ギルドを出ると早くから出店している屋台から美味しそうな香りがしてきた。
「いらっしゃい。1つどうかい?」
屋台ではエバニドリの揚げ焼きが売られていた。これは美味しそう。早速、揚げ焼きを一つ購入した。近くにあったベンチに腰掛け一口。出来立てだったため口をハフハフしながら噛むと、お肉がジューシーで噛むと肉汁があふれて美味しい。まだ食べられそうだったので近くで売ってあったサンドイッチを購入し平らげた。
前、リンドさんが読んでいだグルメ本の桃のタルトのお店が近くにあったので買うことにした。人気店ということもあり、行列が出来ている。一時間並んで買った桃のタルトは大きく艶やかな桃がごろっとタルトの上に乗り美味しそうだった。今すぐ食べたいが、リンドさんと夕食後にでも食べよう。
上機嫌で宿に戻る途中、裏路地辺りから「助けて」と声が聞こえてきた。聞き違いかどうか分からなかったので覗いてみると、一人の小さな女の子の周りに五人の男達が取り囲んでいた。少女を見ると明らかに怯えているようだった。
「何してるの!」
すかさず私は少女のところへ駆けつけて抱き寄せた。
「何だよ。ただ遊んでただけじゃねえか」
いかにもガラの悪い男たちは威嚇をしてきた。
「女の子が怯えてるでしょ」
男達は襲いかかってきそうなのでガードの魔法を発動した。男たちはガードに弾き飛ばされ尻餅をついた。
「クソ!回復師か。めんどくせえ。まあ、いつまでそのカードが持つかな?あれだったらお姉さんも一緒に遊んじゃう?」
男たちは にやにや笑いながら私たちを取り囲んで佇んでいた。私のカードの時間は一時は使えるが切れると、とても不利な状況になる。ここに人通りはない。とりあえずこの少女を連れて表通りに出れば。少女の手を取り移動しようとするが少女は泣いてその場に座り込み動こうとしない。まずいな。片手でガードの魔法を展開しているので、片手で抱っこしようにも動こうとしない。大声で助けを呼ぼうと思った瞬間、
「君たちは何をしているんだ?」
三人の男性達が駆けつけてくれた。
「お前らには関係ないだろ?さっさとあっちに行かないと痛い目に遭うぞ」
「倒せるものならやってみな」
少女に戦いを見せないように目を閉じるように促し抱きしめた。少女は震えながら目を閉じていた。三人の男性達は圧倒的に強く次々倒していく。
「大丈夫ですか?」
一人の男性が手を差し伸べてきた。ガードの魔法を解除し、差し伸べた手を掴み少女と立ち上がった。
「助けていただきありがとうございます」
三人の男性達にお礼を述べた。
「通りがかりの方が、僕たちに知らせてくれて。駆けつけただけです」
少女から男性に絡まれるまでの経緯を聞いた。少女は孤児院から脱走し道に迷ったところ、男達に裏路地に引きずり込まれたみたい。攫われなくて本当に良かった。少女は二人の男性達が孤児院まで送ってくれることになった。きっと男性に絡まれて怖かっただろう。孤児院では足らないと思うが、さっき買った桃のタルトをあげた。
「お姉ちゃん、ありがとう」
少女は笑顔で手を振って男性と共に孤児院に帰って行った。一人残っていた男性は意識を失った男性の服やポケットなど入念に調べていた。私の視線に気づいたのか男性はこちらを振り向いた。
「男達が大きな組織や犯罪グループでないか調べているんだ」
「もしかして、最近の行方不明者って…」
「まだ決定的な証拠はないけど、大きな組織や犯罪グループが関わっていると睨んでいるよ」
一通り調べ終わると男性は立ち上がった。
「帰ろうか?町にいる警備の人や騎士団の人への通報はあとの二人が孤児院から戻ってきたらやってくれるさ」
これで大丈夫だろうか?と疑問に思いつつ路地裏を後にした 。表通りに出ると、男性から宿まで送ると提案があった。表通りは人通りがあるので大丈夫だと断わると、「さっきの男性の仲間に襲われる可能性がある」と言われグーの音も出ない。 結局送ってもらうことになった。
「送ってまでくださって、ありがとうございます 。申し遅れましたがミーナ・ルポルテと申します。宿はポーリー商会の所の宿で少し遠いですけど大丈夫ですか?」
「僕はレクト・ポーリー と申します。レクトと呼んでください。僕も近くの宿に泊まっているので大丈夫ですよ」
ニコッと笑うレクトさんは爽やかな美男子。ブロンドのサラサラとした髪にエメラルドのような綺麗な瞳。とても顔が整っている。さっきから2人で歩いていると、すれ違う人からちょくちょく視線を感じるのは気のせいではないだろう。またレクトさんとポーリーさんの苗字が一緒なので聞いてみるとポーリーさんとは遠縁だった。
「ミーナさんはこの町にはお祭りで?」
「旅をしてまして、たまたまお祭りの期間と被りまして。せっかくなのでお祭りを楽しもうと思っています」
「レクトさんは?」
「僕は仕事で王国から大魔の渦の調査と治安維持の係を命じられて来ています」
「私も大魔の渦について、旅をしながら調べています」
レクトさんに大魔の渦について聞くと リンドさんが言っていたこととほぼ一致していた。
「レクトさん、送っていただきありがとうございます」
「明後日はいい仮装のお祭りになるといいですね」と言ってレクトさんは爽やかに去っていった。リンドさんが起きたらお昼のこと、レクトさんのことを伝えよう。夕方まで時間があったのでお風呂でさっぱりしてバラの香りに癒された。
「ミーナ起きたぞ」
リンドさんが起きてきた。
「リンドさん聞いてくださいよ」と、お昼にあった出来事とレクトさんのことを話した。
「それは大変だったな。みんな無事で良かったよ」と他愛ない話をした。




