サーマンに向けて出発
「明日に出発かね。寂しくなるわね」
私は朝食を取りながら、店主の奥さんと会話をしている。業炎の闘士を抜けてから数日。他の宿泊客とは話をした事はないが、ちらほら顔なじみが増えてとても居心地が良かった。ここを離れるのは寂しい。
「サーマンの仮装のお祭りがこの時期ね。顔が見えないからって悪い事する奴らもいるから。気をつけながら楽しんでおいで 」
店主の奥さんと他愛ない話をして別れた。食堂で食事を済ませ、部屋で荷造りの準備を進めていく。外から聞こえる楽しそうな声にふと外に目をやる。この街を出ると思うと寂しくなる。平和で素敵な街。またいつか来たいな。
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翌日、出発の時刻になり、大荷物を背負いリンドさんと宿のフロントに向かう。フロントには宿の店主と奥さんが見送りのため待っていた。
「短い間でしたが、大変お世話になりました。 ありがとうございました」
一緒に店主と奥さんにお礼を言うと、奥さんは泣きそうな顔をしていた。
「また、この町に来たら、いつでもいらっしゃい 。美味しいご飯を用意するわ。夜道は危険だから気をつけてね」
店主の奥さんとハグを交わし、宿を後にした。旅は新しい出会いがあるが別れになると寂しい。冒険者ギルドにも寄り、ハンテさんにもお別れの挨拶をし町を出た。
夜道を照らす杖に明かりを灯し歩く。暗く遠くまで見えないので明かりを持つリンドさんを先頭に。私は背後から襲われても大丈夫なように自分にガードの魔法をかけ、リンドさんの後ろを歩いている。途中に何度も唸り声や物音がした。時には弱い魔物が襲い掛かって来るが、ガードの魔法にはじかれリンドさんに燃やされていた。 思った以上に私の魔力を消費したので、早めに休憩を取ることにした。ゴツゴツとした大きな岩に腰をかけ、竹筒に入った水を飲んだ。夜の移動は敵が見えづらく戦いにくい。
「少し早いが夕食にするか?」
町を出る前に軽食を買っておいたので、辺りを警戒しながら食べていく。
「さっきからずっと複数の唸り声がしますね」
「もしかしたら俺達をずっとつけているのかもな 。油断をしている時に襲い掛かってくるかも知れない。引き続き警戒するぞ」
さっさと食べ荷物を持ち上げた瞬間、一匹の犬みたいな魔物のチョーコスが私をめがけて襲い掛かってきた。リンドさんはすかさず炎魔法で倒す。一匹のチョーコスが攻撃した事を皮切りに三匹のチョーコスが襲いかかってくる。しかしリンドさんの炎魔法に三匹とも焼き付くされてしまった。
「大丈夫?怪我はないか?」
「大丈夫です。 ありがとうございます」
尻もちをついている私にリンドさんが手を差し伸べてくれた。
チョーコスを倒したせいか唸り声は聞こえなくなった。私達はサーマンに向けて夜道を進んで行く。




