リンドさんの過去
朝になり、食堂に向かう。忙しく朝の準備をする店主夫婦に挨拶をし席に着く。今日の朝食はパンとベーコンと目玉焼きとポトフ。ポトフはお野菜がゴロゴロして甘くて美味しい。
朝食を満喫した後は夕方にリンドさんと旅の行き先について話し合うため、冒険者ギルドに行き王国全体の地図を購入した。
「こんばんは。ミーナです」
日没になり、ドアをノックする。眠たいのだろうか?気だるそうなリンドさんが出迎えてくれた。薄暗い部屋に明かりをつけ、ローテーブルの前に座った。
「今日はこれからの旅の行き先を話し合おう。まずは俺の生前の事を話す」
リンドさんはいつになく真剣な面持ちで話し出す。
「俺は第14代国王キルア・カルテッドの次男に生まれ、男三兄弟で育ったんだ。長男と三男は正妻の子で、俺は妾の子だ。俺はとにかく兄貴と正妻と仲が悪くてな。兄貴が後継者になる予定だったが、大魔の渦で俺が活躍しちまって後継者争いに巻き込まれたんだ。誰が仕組んだかわからないが、結婚式前日に毒を盛られてな。なぜ今、生き返ったか分からないけどな」
自分の過去を話し出すリンドさん。とても悲しそうな表情をしていた。
「結婚式前日に…」
言葉が出なかった。婚約者の方もリンドさんも無念だっただろうに。何と声を掛けて良いか戸惑う。
「俺はこの旅で毒を盛られてからの王国の歴史を知りたいし、婚約者がどうなったのかを知りたい。あと、大魔の渦を経験しているから知識を役立てたい。もしかしたら目的地から逸れる事があるかも知れないが大丈夫か?」
「全く問題ないです。リンドさんって大魔の渦を経験しているんですね」
「ああ、200年前の大魔の渦でな。第二部隊の魔法騎士団長やってたから戦ったよ。凄まじい魔物の襲来で大規模な被害を被ったよ」
大魔の渦は話でしか聞いたことがなかったので、それが5年以内に来ると思うと恐ろしい。しかし、まだ実感が湧かない自分もいてとても戸惑っている 。
リンドさんは地図を広げて説明する。
「まず、大魔の渦は王国全体で大きな揺れがある 。そこから各地に魔界と繋がる渦が発生し、西部は海の魔物が発生し暴れ出す。そして北東部の国境にあるフマステラ山が噴火し、麓の森の魔物と渦から出てきた魔物が町に流れ込んで大惨事だ。そこが一番被害が大きかった」
現在、西部や北東部には大きな町がありそれぞれ有力な貴族が領地を治めている。その町に魔物が現れると甚大な被害が出るだろう。
「ああ、そろそろ夕食の時間だろ? 一旦切り上げて食堂で食べるか」
話し合いを一旦中止し、そそくさと階段を降り一階の食堂へ向かう。食堂には私達の他にも何人か食事を摂っていた。リンドさんは目立つので、一目見るなり驚いた表情をしたり、もの珍しそうにこちらを見てくる人が何人かいた。近くにいた店主の奥さんに声をかけ、席に座る。
「お待たせしました。今日の夕食です」
少し待つと料理が運ばれてきた。目の前に置かれたのは熱々のご飯と白身魚のフライ、小ぶりのハンバーグに目玉焼き、色鮮やかなサラダだ。手を合わせ早速食べ始める。まずは白身魚のフライ。 揚げたてで口に入れると、とても熱く火傷しないように口をハフハフしながら食べる。白身魚の味は淡白だが肉厚で上にかかっている香ばしいソースとマッチして美味しい。
「なかなか美味しいな 」
リンドさんは小ぶりなハンバーグに半熟の目玉焼きの黄身をつけながら、頷きながら食べていた。他のお客さんはねずみの被り物の口が大きく開いたのを見て目を開いて驚いていた。最初は視線を感じたが他のお客さんもそれぞれ会話に花が咲き気にせず食事をしだした。食事を終え、リンドさんの部屋に戻り話し合いを再開する。




