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【27】告白②

「愛しいからに決まっている」


ラファエル様にそう言われ、私は頭が真っ白になった。


彼の瞳が、怖くて直視できない。絶対に逃がさないと言わんばかりの、その視線が。怖くて怖くて、なのに私の口からは、茶化すような笑い声がこぼれていた。


「……ふふ。もう、ラファエル様ったら何を言っているんですか? それは『家族愛』ですよ」


――ぼくには家族がいないんだ。

――ぼくもシスターの家族になれる? 

遠い昔に、あなたは私にそう言ったもの。だからきっと、あなたのそれは男女の愛ではない。男女の愛で……あってはならない。


「家族愛……?」

「ええ。子と親が互いを想う気持ちです。私とあなたは、そうやって昔から……」

「違う」

彼の声が震えている――怒っているんだ、と思った。


「家族愛? 恩義? 私がどんな気持ちであなたに寄り添い続けたか……そんな生ぬるい気持ちだったと思うんですか? ふざけるのはやめてください!!」


ぐい、と引き寄せられていた。そのまま腕できつく抱かれて、押し返しても逃げられない。

「あなたが助かるなら、命に代えてもかまわない。あなたが死ぬなら私も死ぬ。そう覚悟して生きてきました。これが愛でないのなら、私は愛なんていらない!!」

「……!」

家族愛と呼ぶには重すぎる彼のそれが、もしかして恋愛感情なのではと感じたことは確かにあった。……本当は、ずっと前から感じていたのかもしれない。でも、気づかないふりをしてきた。


「離して……」

「逃がさない。私はエルダしかいらない。あなたのすべてが欲しいんだ」


聞きたくなかった。そんなの、絶対に聞いちゃダメなのに。


「――やめてよ!!」

私は声を荒らげ、必死に逃げ出そうとした。

「何を言っているの!? ……婚約者がいるくせに、どうしてそんなことが言える訳!?」


びくり、と彼の動きが止まった。

「婚約者……?」

「本当は私、知ってるんだから!! あなたには、挙式を控えた女性がいるんでしょ!? なのに、よく私に『愛してる』なんて言えるわね!」


びっくりした顔のまま、彼は身じろぎもしなかった。きっと、私が知っていたとは思わなかったのだろう。

「エルダ。……あなたは何を」

「ともかく離して! 離してよ!!」

私はすっかり冷静さを失って、がむしゃらに暴れてラファエル様の腕を振りほどこうとしていた。

――びり。という布の裂ける音がして、ハッとする。私の指が彼の嵌めていた絹手袋に引っかかって、誤って破いてしまったのだ。彼の手首が露わになった。



「ラファエル様、それ……」

彼の手首に浮かぶ模様に、私は釘付けになった。不自然な赤黒い模様……いや、痣だ。この痣を、私はよく知っている。


ラファエル様は弾かれたように私から離れると、自分の腕を背中に隠した。けれど私は、強引に彼の手を取り絹手袋を引っ張った。……彼の手首から指先に伸びているのは、間違いなくいばら病のアザだ。


「どうしてあなたに、そのアザが……?」


ラファエル様は、答えない。気まずそうな顔で唇を引き結んでいる。


「まさか、あなたまでいばら病に……?」

ウソだ、そんなのはあり得ない。理解不能な恐怖に飲まれて、私は何も考えられなくなっていた。


理不尽な恐怖感。強烈な死のイメージ。

目の前にいるこの人が唐突に倒れる姿を想像し、私は息ができなくなった。自分が倒れることよりずっと、彼がいなくなるほうが怖い。彼の人生が壊れてしまう、そんな未来は絶望でしかない――そう思った瞬間に足の力が抜けて、私はその場に倒れ込んでいた。


「エルダ!? まさか再発発作が……」

ラファエル様に抱き起こされても、私はぐったり脱力していた。体が熱い、息ができない、肺の奥から不快な何かがせり上がろうとしてくる………………「かはっ」とそれを吐き出そうとする、その直前に。


「エルダ!!」

ラファエル様が、私の唇を奪っていた。

(…………ラファエル様?)

深いキス。

唇を割って差し込まれた舌は熱を帯びていて、体の中から溶かされそうだった。理解できず力も入らず、されるがままに受け入れる。なぜか、全身の痛みや吐き気が遠ざかっていく――。


力が戻ったその瞬間、我に返った私は彼の頬を打った。

「何するの!?」

ラファエル様は、硬い表情で口をつぐんでいる。



「――――最低」

吐き出すようにそう言うと、私はラファエル様の前から逃げ出していた。


分からない。分からない。全部分からない……!

泣きながら、自分の部屋へと駆け込んでいた。


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