ソフィア、働き始める
「オーダ」
小さい声で呪文を唱える。臭いを消すことだけに集中して。
ただ、集中しすぎてうっかり足を止めてしまった。
私の足跡が止まったのに気がついたのか、メリッサさんが振り向く。
これで魔法使ったのばれて、『なんでいま魔法を使ったの?』『汗臭かったので』てな感じの会話…。したくないなぁ。
「何してるの、早くきなさい」
メリッサさんが走った言葉はそれだけだった。
魔法を使った理由を聞かれないってことは、もしかして、汗臭いことに気がついてた…?だから聞かなかったのかな…?恥ずかしいけど、気遣いがありがたい…。
焦りながら屋敷の前に着いて、汗臭さを通ってとか頑張ってたからお屋敷の大きさを見る暇がなかったけど、
「おっきぃ」
うっかり、声がでしまうくらいには大きなお城だった。
「ふふふ、屋敷に入る前になんかか言っておかなきゃ行かないことがあるわ」
メリッサさんの穏やかな雰囲気は一変して厳しいものになった。
緊張してぴしっと、姿勢を伸ばす。私さっきまで結構猫背だったかも…。やばい…これで気品がないから失格!って話じゃないといいけど…。
「メイドを希望したけれども、この研修期間に辞めていく人が大半だと言う話は手紙で書いたと思うわ。その理由は主に二つよ。一つ目は仕事の大変さに耐えられないこと。もう一つは次期当主様に色目を使ったことよ。あなたはまずここにくる時に、着飾ってきてないし、お付きの者とかも連れてきてないから二つ目の方は大丈夫として、一つ目の方は大丈夫かしら?」
おそらく、メイド長の話だ。過去にそう言う事例があったのだろう。
メイドの研修期間に侍女連れてきたりドレスできたりする人いんの?やば…。と、顔も名前も知らない人であるが、少し軽蔑するな。二つ目に関しては…
「問題ありません。今まで畑仕事など家でさまざまな仕事を手伝ってきましたので、力仕事から書類仕事に至るまでほとんど何でもできます!」
「あらそれは頼もしいわ。それでは屋敷の中に入りましょうか。まずあなたのお部屋にご案内するわね」
そう言って案内されたのは館の東側。案内された部屋は個室だった。机に椅子とベッドとトイレ。
「この東の館はメイド専用の館よ。お風呂と台所、リビングは共用スペース、今メイドは私と他に2人だけだからこの館にいるのはあなたを入れて4人だけよ」
「ほ、ほ、本当にここなんですか…?」
本当に部屋…。念願の…1人部屋…。
「えぇそうよ、気に入らなかったら帰ってもらうしかないのだけれど…」
困ったようにいうメリッサさん、しまった。誤解を与えてしまった。
「いえ!そう言うわけではなくて…。1人部屋というのが嬉しくて!今で、妹2人と弟2人と5人で部屋を共有してきたので」
「あらそうだったのね。いいわね大家族」
「はい!みんな明るくていい家族です」
そのあとは、屋敷についての説明を受けた。中央の館は客間とか、当主様、次期当主様の執務室とか、食堂とかががあるらしい。
西の館はルー家の方々の寝室とかがあって研修期間は進入禁止。基本、西の館に入るときは奥様と、お嬢様が夜会などでドレスを着る際の着替えの手伝いくらいしかないらしい。
水の魔法の家系だし、掃除は自分でしちゃうんだろうな。
一通り屋敷内の紹介が終わり、東の館に帰ってきた時にはもう夕暮れだった。
「ありがとうございました。メリッサさん!」
「いえいえ、今日は疲れたでしょうからゆっくり休んでね。夜ご飯は保冷機の中に入っているわ。いつもシェフが夜ご飯と次の日の朝ごはんを一緒に入れておいてくれるから。昼ごはんも同じく、保冷機に入っているわ。シェフは人見知りだから基本的に顔を出さないけど実力は確かよ。美味しいと思ったら感想をかきてあげて。喜ぶから。じゃぁ、明日はここに6:00に集合ね。みんなと顔合わせをしたら6:30から仕事開始よ。じゃぁ、私は早に戻るから何かあったら呼んでね」
「了解です」
そんなこんなで私のメイド生活は幕を開けた。
翌朝
「本日からお世話になります、ソフィア・アグアです。よろしくお願いいたします!」
そう言って頭を下げると、
「よろしくねソフィアちゃん、私はアンジェラ」
アンジェラさんは髪を一つにまとめた明るめの茶色の髪を靡かせて、明るめの青色の目をしているすこしふくよかな方。
「こにらこそ、私はサラよ」
サラさんはショートな黒髪に黒色の目で、快活な笑みを浮かべている。
青色の目をしているからアンジェラさんはルー家の分家かな?
2人とも40代〜50代くらいだ。メイドって若いイメージがあるから少し意外だった。
「では今日の仕事を始めるわ」
そうして、仕事は始まり、怒涛の1週間だった。
めちゃくちゃ疲れた。
いつもは広範囲に水を行き渡らせる、少し雑でもいいから大規模な魔法を使うことが大切だったし、洗濯や掃除も自分たちのものだから少し雑でもなんとかなった。
でも、洗濯や掃除でお給金をもらう以上、丁寧に隅々まで細かくやらなければならないから、いつもとは違う集中力が必要で大変だった。
畑仕事とは少し違う仕事であるメイドの仕事も意外に楽しいなと思いながらベッドに突っ伏していた。
コンコン。
誰かがきたらしい。ベッドから起き上がるのかぁ。と少し憂鬱に思いつつも体を起こし、
「どちら様ですか?」
と言いながらドアを開けた。サラさんだった。
「ごめんね、ソフィアちゃん急に。明日かなルウィリアム様付きだからよろしくね。ウィリアム様の執務室にお菓子とお茶を届ける仕事よ。1番簡単なようで1番神経をすり減らすからこの仕事をする時は基本的に他の仕事はしなくていいわ」
わざわざ明日の業務内容を伝えに来てくれたらしい。
「はい!!」
そのあと、業務の内容について少し詳しく聞き、話が途切れた頃、
「それじゃぁよろしくね。おやすみ」
「おやすみなさい!」
サラさんに手を振り、ドアを閉めベッドにダイブする。明日はウィリアム様付き、ウィリアムさま…?ウィリアム…さま…って、だれ?
翌朝、サラさんに『ウィリアム様の部屋ってどこでしたっけ?』と尋ねた。さすがにウィリアム様ってどなたですか?とは、聞きにくかった…。
サラさん曰くお茶とお菓子を運ぶ時間は朝の10:00と15:00。要望があれば19:00とかにも運ぶことがあるらしい。
9:30、サラさんから昨日聞いたお菓子のたくさんある場所でお菓子を選んでいる。たくさんのお菓子と紅茶の茶葉。ウィリアム様の好みもわからないから、甘いお菓子と甘くないお菓子を持っていったとして、お茶は…ダージリンとアッサムティーもってこ。王道だし。
そう思い時計を見ると9:50。ゆっくり向かって部屋の前で待機すればちょうどいい時間だろうと思い、ルーカス様の部屋に向かう。
ウィリアム様…名前的に男だし、公爵様かな…?
そう思いそれをカートに乗せて、教わったルーカス様という人の部屋に向かう。
10:00ぴったり。
コンコン
「お茶菓子をお持ちしました」
少し緊張しつつ、声を上ずらさないようにいうと、
ガチャっとドアが開き、
「どうぞお入りください。あ、私ルウィリアム様の側近のメイソンと申します」
明るめの茶髪に明るめの青色の瞳は。どこかで見たことのある顔をしたひとが笑顔でそう言った。
「ありがとうございます」
とお礼を言い、ウィリアム様の執務室に入った。
中には、メイソンさんの他に2人男の人がいた。
1人はメイソンさんと同じ執事的な立ち位置の人なのだろう。少し褐色の肌に綺麗な紫の目の高身長の男の人だ。
パッと、この部屋で唯一座っている人物、ウィリアム様の顔を見ると…。
「…うぃ…る…?」
そこには私の初恋の人がいた。
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また次話で、あなたとお会いできたら嬉しいです٩( ᐛ )و