第3章50話:刃竜戦2
俺は拳を使って、刃を殴り砕いていく。
どうしても拳が間に合わないものは、素早いステップで前後左右に動き、回避する。
「悪くない攻撃だ」
と俺は、刃竜の刃を賞賛する。
空に浮遊した状態で、地上にいる者を刃で攻撃する。
たとえばこんなドラゴンが街を襲撃してきたりしたら、ほとんど一方的な蹂躙となるだろう。
「だが、俺には通用しない」
そう告げた直後、いよいよ、最後に飛んできた刃を粉砕した。
刃竜が驚愕しながら尋ねてくる。
「おぬし、いったい何者じゃ……? 我のブレスに引き続き、刃の全力攻撃まで防ぐじゃと? 人間ごときに有り得ん所業じゃ」
「普通の人間ならば、確かにお前の攻撃を防ぐのは、限りなく不可能に近いだろうな」
「おぬしは常人ならざる存在であると?」
「それは、自身の目で確かめてみればよい。俺が何者もねじ伏せる存在であるということをな」
豪語する俺の発言に、刃竜は告げる。
「確かにおぬしは強い。じゃが……しょせんは人の子よ。空を飛ぶことはできず、地を這うことを義務づけられた存在。竜を見上げることはあっても、見下ろすことはない。それが人間という、弱き生き物のサダメじゃ」
刃竜は残酷な摂理を謳うように、告げた。
その発言に、間違いはない。
ほとんどの異世界人は、空を飛ぶことができない。
浮遊魔法は存在しないわけではないが、伝説級の魔法であり、使える人間は非常に限られる。
そして、それゆえに、人間は飛行する魔物から主導権を取ることは難しい。
特に竜ほどに知性がある魔物は、空を支配することがどれだけ優位であるかを理解しているので、なおさら手強い。
人が竜に勝てないのは、単に竜が強いからというだけでなく、飛行するからというのも理由の一つなのだ。
(たしかに念力格闘術では、ヤツの位置には届かんな)
と俺は思った。
さきほど作ったミスリル武器を投げつけても、刃竜の甲殻は貫けないだろう。
となると……
(サイコキネシスを使うしかない)
なるべく他人に知られたくない能力だが……仕方ないか。
サイコキネシスで仕留めよう。
俺は告げた。
「人が竜に届かぬのは、たしかに常識的な事実であるが、俺に常識は通用しない。むしろ、常識があるなら壊すまでだ」
「……」
「俺がお前と同じ位置に行くのも悪くないが、そうだな……今回は、お前を大地に引きずりおろす方向でいこう」
「何を言っておる?」
と刃竜は困惑混じりの言葉をこぼした。
俺は、浮遊する刃竜に向かって手をかざし、サイコキネシスを発動した。
「む!?」
刃竜が目を見開く。
次の瞬間。
刃竜がまるで、強大な重力に引きずられでもしたかのように、地面へと急降下していく。
「ぬおおオオオォォォッ!!?」
刃竜が、岩の台座のうえに叩きつけられるように落下した。
激しい震動と風圧が巻き起こり、砂塵を舞い上がらせる。




