第1章3話:岩山
「いや、落ち着け……」
怒りに染まりそうな思考を、沈静させる。
(俺は、今、大して強くない)
16歳時点でのアンリは、ただの雑魚だ。
ちなみに女神から転生特典やチートスキルなども、貰っていない。
一つぐらいくれたっていいのに……と思うが、無いものは仕方ない。
(まずは強くならないとまずいな……)
そう考える。
弱肉強食の異世界において、強さは絶対だ。
何よりもまず、戦闘能力を高めることが急務である。
「あ……!」
そのとき、俺はふと思い出した。
アンリには、最強のキャラクターへと進化するイベントがあるのだ。
このイベントを阻止せず、放置してしまうと、アンリは強すぎる敵キャラへと進化してしまうため、ゲームでは必ず阻止しなければならない。
逆に言えば……
いまの俺がそのイベントをこなすことができれば……
最強のキャラへと進化することができるというわけで。
(やるしかない!)
と、俺は思った。
というわけで俺は、さっそくイベントのある場所へと、歩き出すことにした。
で。
俺はガレイン岩山にやってきた。
この岩山の奥地に存在する【霊玉】を手に入れることで、アンリは最強キャラへと進化する。
なので、なんとか奥地まで進む。
そして。
ようやく、目的地に辿りついた。
円形の広場である。
周囲は岩石や、岩壁に囲まれた場所。
ガレイン岩山の最深部。
その中央に祭壇があって、霊玉が置かれているはずなのだが……。
「ん……?」
誰かいる。
祭壇の前に、何者かが立っていた。
あの後ろ姿は……まさか。
「あん?」
相手も、俺に気づいたようだ。
こちらを振り向く。
やはりだ。
「……デレク」
ヤツは……デレク。
赤髪で、緑色の瞳を持つ男性勇者。
俺を追放へと追いやった張本人だ。
「おやおや、誰かと思えばアンリじゃないか」
とデレクは嫌味な笑みを浮かべる。