第6章208話:刺客
数日後。
港町を離れた俺は、王都からやや離れた山道を進んでいた。
この日は山間にある小さな街を訪れる予定である。
街では特産の木材が産出され、建築に欠かせない素材として重宝されている。
俺は山道の美しさに目を奪われながら、ゆっくりと馬を進めていた。
「やはり自然をゆくのは気持ちがいいな」
俺は空を見上げる。
さわやかな山の空気を胸いっぱいに吸い込む。
山鳥のさえずりと葉擦れの音だけが聞こえる静けさが、心を落ち着かせた。
馬上から見下ろす谷間の景色は絶景だった。
遠くには森が広がり、その向こうには川のきらめきが見える。
山の斜面には岩肌が露出し、日光を受けて輝いていた。
(あと半日もすれば街に着く。それまでは、穏やかな自然の景色でも楽しむとするか)
俺は持参していた地図を確認しながら、道を進んでいく。
山道は次第に狭くなり、両側には切り立った岩壁が迫ってきた。
馬はゆっくりと慎重に歩を進めていた。
――――突然、俺は違和感を覚えた。
周囲の空気がかすかに変わったのだ。
鳥のさえずりが止み、不自然な静けさが辺りを包んでいた。
直感が警告を発する。
(……何かいるな)
と俺は心の中でつぶやいた。
次の瞬間。
岩の陰から黒い影が飛び出した。
「死ね!!」
黒装束の暗殺者が、刃を手に跳びかかってきた。
刃には毒が塗られているのか、緑色の液体に濡れている。
しかし俺はサイコキネシスの防護膜を展開していた。
ゆえに刃は、その見えない障壁に阻まれ、俺の肉体に届くことはなかった。
「なっ……!?」
暗殺者が驚きの声を上げた瞬間、俺は冷静に反撃に出た。
サイコキネシスで暗殺者の身体を宙に浮かせ、近くの樹木に叩きつける。
暗殺者は苦悶の声を上げ、倒れこんだ。
(一人じゃないだろうな)
と俺は推測する。
その予感は的中した。
周囲の岩陰から次々と黒装束の男たちが姿をあらわす。
素早い動き。
手に持つ武器はさまざまだ。
短剣。
毒針。
鎖縄。
どれも暗殺のプロが使う道具ばかりである。
(『影の使者』か……)
と俺は推定する。
ゲーム知識からして、おそらくこいつらは『影の使者』の一団だろう。
彼らの中の一人、リーダーと思われる男が前に出て、告げた。
「お前の命をいただきにきた」
俺は馬から降りた。
「貴族どもが雇ったのか?」
「我々は雇い主の名を明かさない。ただ、お前をよく思わない者たちからの依頼だ」
「なるほど」
俺は不敵に微笑んだ。
「俺を討てると思うならば、試してみるといい」
暗殺者たちは瞬時に散開し、連携した動きで俺を取り囲んだ。
彼らの動きには無駄がなく、まるで長年、共に戦ってきた精鋭部隊のようである。
最初の攻撃は四方から同時に仕掛けられた。
投げナイフが空気を切り裂き、毒矢が放たれ、縄が広げられた。
しかし、どれも俺のサイコキネシスの前では無力だった。
俺は指一本動かすことなく、全ての攻撃を空中で停止させた。
「なんだ……この力は」
暗殺者のリーダーが驚愕の声を上げた。
俺は無言で手を前に伸ばした。
すると停止していた武器が全て、暗殺者たちに向きを変え、逆方向へと飛んでいく。
暗殺者たちは武器を避けようと散開したが、動きの遅い者は自らの武器に傷つけられた。




