第6章207話:港町の宿泊
俺は微笑んでから告げた。
「話が早くて助かる。もちろん何事も急激にではなく、段階を踏んで準備してもらえれば構わん」
さらに続ける。
「まずは農作物の輸送を試験的におこなう拠点を定め、そこから手応えを掴んで拡大していけばいい」
ヴァーゼルはウンウンと頷きながらメモを取った。
さっそく実行への道筋を思案しているようだった。
「では陛下のお考えに沿った形で、私どもの船団をいくつか農作物の輸送向けに再編し、倉庫建設の準備も始めましょう。この事業には多大な費用がかかるかと思いますが、陛下が強力にバックアップしてくださるのなら、やり甲斐がございます」
つまり事業資金を寄越せ、という要求だ。
さすが大商会のトップ……国王が相手でもしたたかである。
俺は答えた。
「当然、協力を惜しむつもりはない。必要な人材や国内での輸送設備にも手を尽くす。ティメリア宰相らにも話を通して、行政面でもサポートさせよう。―――俺はこの国をもっと豊かにしたいと考えている。そのためには、お前たちのような水運業者の力は欠かせない」
ヴァーゼルの表情は明るかった。
こうして農作物を軸にした水運と、鉱石の輸入を組み合わせる構想が、スタートを切ることとなった。
―――――さて商談は終了した。
ヴァーゼルは話題を切り替える。
「陛下、お疲れでしょう。当地が誇る最高級の宿『ファルカール』にて、お部屋を手配してありますので、ごゆっくりお過ごしください」
「うむ。心遣い、感謝する」
夜になる。
俺は『ファルカール』の最上階にある部屋のバルコニーに立っていた。
目の前には大河エルネッタの広大な流れがあった。
大河には月明かりが落ち、夜の宝石のごとく輝いている。
遠くには港の灯りが瞬く。
夜空には無数の星がきらめき、俺が王城で見るのとは違った開放感がある。
「陛下。お料理をお持ちしました」
宿のスタッフが声をかけてきた。
俺はバルコニー付近に設置された食卓に向かった。
そこには、地元の新鮮な魚介類や肉、野菜を使った贅沢な料理が並べられていた。
一人の食事を開始する。
窓の外には大河の流れと、それを囲む港町の夜景が広がっている。
地元の川魚のグリルは絶品で、香草の風味が絶妙に効いていた。
店のおすすめ商品らしい葡萄酒は丁寧に断り、代わりに柑橘系のジュースを選んだ。
「悪くないな」
食事をしながら、今日の商談のことを思い返す。
この港町から始まる経済改革が、どこまで国を変えられるだろうか?
俺はグラスを口にしながら、大河に移る月を見つめた。
そして次の視察先に想いを馳せながら、静かな夜の時間を楽しむのだった。




