第6章206話:輸出ルート
「農作物は単価が安いため、これまでお前は、あまり商品としては扱ってこなかっただろう?」
と俺は確認する。
コールヴィム商会が低単価の商品を扱ってこなかったことは、事前に調査済みだ。
ヴァーゼルはうなずく。
「ええ。ですから我々としては高級の家財や装飾品など、単価の高い商品を中心に輸出してきました」
「大河運送に限った話ではないが、遠距離の貿易では高単価商品を扱うほうが利益は出やすいからな」
「おっしゃる通りです。もしも農作物を商材として扱うならば、大量輸送が必要になるでしょう。現在のベルナダ国の生産量では難しいと思いますが……」
と懸念を口にするヴァーゼル。
俺はゆっくりと微笑み、ヴァーゼルをじっと見つめた。
「実は近々、全国的に大規模な開墾をおこなうつもりだ」
「開墾……ですか?」
ヴァーゼルの眉がぴくりと動いた。
「そうだ。ベルナダ国には広大な未開拓地が存在する。そこを開墾して、大規模な農地とする計画を実施する予定だ」
俺はテーブルに地図を並べた。
ヴァーゼルは興味深げに地図をのぞきこむ。
そこには国内の大きな平野部や未開拓領域が示されていた。
「つまり野菜や穀物の大量生産が期待できるということだ。そこで、あらかじめ輸送ルートを確立しておけば、お前の商会は先んじて莫大な利益を上げられるだろう」
ヴァーゼル会長は身を乗り出した。
俺の言葉に耳を傾けながら、彼は地図上の輸送路や倉庫の位置を指し示す。
「確かにエルネッタ川の水運は非常に効率的ですので、他国との国境付近にも船を回せば、相当量の荷を運べます」
「ああ。ちなみに輸出国については、農業が難しい砂漠国や荒野地帯の国々を想定している。あれらの国は食料の輸入を希望しており、代わりに豊富な鉱石を算出している」
「ふむ……アンリ陛下は、鉱石をご所望だと?」
「そうだ。わがベルナダ国は戦士の国。だからこそ鍛冶や職人の技術も高い。その技術を最大限に発揮するためには、素材となる鉱石の確保が不可欠だ」
「ほう。つまり農作物を持って行き、鉱石を持って帰る。その鉱石を使って国内の鍛冶や工芸を活性化させる……そういう算段ということですか」
俺はうなずいた。
「ああ。鉱石を使って製造した武具や金属製品は、高単価で売却できる。一般的に原材料よりも加工品のほうが高く売れるからな」
俺のプランをまとめると、以下のような流れだ。
1:大規模な開墾によって農作物を大量生産する。
2:農作物を砂漠国や荒野地帯へと販売する。
3:代わりに大量の鉱石を購入する。
4:その鉱石を用いて、国内の鍛冶や職人に鉱石製品を生産させる。
5:出来上がった製品を諸外国へ輸出して稼ぐ。
この5つの流れの中で、経済の成長を図るつもりだ。
俺の絵図を理解したヴァーゼルが、うなるように微笑んだ。
「陛下のお考えには、たいへん驚かされました。大規模な開墾……そこに水運と工業を組み合わせるとは! 私どもにも、ぜひともその壮大な構想に関わらせていただきたい」
「それは農作物の輸出を引き受けてもらえる、という解釈でいいか?」
「はい!」
ヴァーゼルがそう言い切る。
今回の俺の提案は、彼にはよほど魅力的に映ったようだ。
商談成立である。




