第2章21話:秘境の魔族
するとオッサンがこちらに目を向ける。
「……この人は?」
「えっと……旅人のアンリさんです。落石で道が塞がっているところを、助けていただきました」
とフレミアが答える。
オッサンが感心しながら告げる。
「そうだったのか。アンリさん、突然のことで、何がなんだかわからないかもしれないが……帰ったほうがいい」
「……それは、ブロースとかいう魔族がやってきているからか?」
「ああ。ブロース様に見つかったら、何をされるかわからない。巻き込まれないうちに――――」
とオッサンが言いかけたときだった。
「お!! 見つけたぜ!!」
と声がした。
現れたのは……男性魔族だ。
青紫色の肉体。
黒いツノ。
悪魔的に伸びた爪。
「ブロース様……」
とオッサンが声を漏らす。
なるほど。こいつがブロースか。
「フレミア、探したぜ?」
ブロースが言った。
フレミアが怯えた様子で、一歩後ずさる。
「ちょっと気が早いけどよ。今日、テメエを喰うことになった」
「え……?」
フレミアがよくわからないといった顔をする。
ブロースが告げる。
「忘れたか? テメエはオレたち魔族の生け贄だ!」
「そ、それは……覚えてます」
フレミアが答える。
生け贄……
ゲームでもあったイベントだ。
たしか、この地には以下のような伝説がある。
―――ヒコ村は、かつて大災害に見舞われた。
その大災害を救ったのが、【秘境の魔族】であった。
以後ヒコ村は、これらの魔族に対して、定期的に「巫女」を献上することになった。
つまり生け贄である。
昔はヒコ村の住民は、秘境魔族に対し、感謝の意を込めて生け贄を捧げていたが……
何百年も時が経ち、大災害の記憶が過去のものとなる中で、生け贄を捧げることは、ヒコ村にとって苦痛となっていった。
昔はヒコ村と良好な関係を築いていた魔族側も、現在はヒコ村を蹂躙するような態度を取っている。
(それで、今回はフレミアが、その生け贄に選ばれているというわけか)
と俺は理解した。
巫女を喰らうことで、魔族はパワーアップすることができる。
そして生け贄となる巫女は、誰でもなれるわけではない。
一定確率で、巫女となりうる素質を持った者が、ヒコ村の中から生まれてくる。
不運にも、それが今回フレミアだったということだろう。
「でも、3年は待ってくれるという約束だったはずです……まだ1年しか経っていません」
とフレミアが抗議した。
ブロースが笑みを浮かべながら告げる。
「そうだなァ。だから、その約束はナシだ」
「……!」
「いま、食べる。身体を清めて、喰われる準備をしてこい」
「そん、な……」
フレミアがガタガタと震えた。
フレミアは動かない。
いや、動けないのだ。
そんなフレミアに、ブロースが告げる。
「どうした? まさか反抗するのか?」
ブロースがニッと残酷な笑みを浮かべながら、続ける。
「魔族に反抗したら、このヒコ村がどうなるか……わかってるよなァ?」
「……ッ」
フレミアはおびえ、涙を浮かべた。
(なるほどな)
と俺は納得する。
だいたいの事情はわかった。
つまり……
ブロースはぶち殺しても構わないということだ。
やるか。




