第6章197話:遷都
「ゆえに代理を務めてもらう。政策案は読んだな?」
「はい」
「ならば、俺が目指すべき国家像は理解できたはずだ。後のことは委細、お前に任せる」
「そのような大任を任じていただけるとは、光栄の至りです。しかし、私が陛下のお考えを完全に理解し、遂行できるかどうか……」
と不安げな様子を宰相は見せた。
俺は告げた。
「俺は自分の考えを、お前に100%理解してもらおうとは思っていない。俺が望んだことを、お前が完璧に察して、叶えてくれるなどとも思っていない。しょせんは赤の他人なのだから、完璧な意思疎通は不可能だ」
さらに俺は続ける。
「だから『だいたい合っていればそれでいい』。お前の舵取りが、俺の望む方向とおおむね一致していれば、文句は言わない。あまりにも方向がズレたときだけは口を出して、軌道修正してやる」
「はっ。承知いたしました」
と、うやうやしく頭を下げて宰相は承諾を示した。
ここで俺は、次の政策を提示することにした。
「あと、この王都から遷都したいと思っている」
ティメリアは一瞬、目を見開いた。
遷都――――王都を移すこと。
それは民衆だけでなく国政にも大きな影響を及ぼすものである。
「陛下、遷都とは……」
彼女の声には驚きと同時に、深い懸念がにじんでいた。
俺は答える。
「現王都は、立地に縛られている。ベルナダ高原は人里離れた場所にあり、周辺地域とのつながりが弱い。まあ攻め込まれたときに守りやすいという面もあるが……しかし、現在は経済的な利便性を優先したい」
そこで一拍置いてから続ける。
「ゆえに俺は、国の経済と文化の中心として、より開かれた都市―――『ノーファンダル』に遷都することを考えた」
王都を移動させるという大胆な計画。
ティメリアはしばし思案げな顔をしてから。
「なるほど……ノーファンダルへの遷都は確かに革新的ですね」
と肯定の意を示し、さらに続けた。
「正直、私には考えつかない発想でした。陛下がおっしゃるように、新たな首都としてノーファンダルは、極めて魅力的な候補でございます。かの都は、豊かな自然資源と先進的な職人技術、そして地理的に、近隣都市との交易の中継地となる場所です。あそこを首都とすれば、政治と経済の動きがスムーズになり、国全体が活性化することに繋がるでしょう」
ノーファンダルへの遷都をしたときのメリットやデメリット、具体的な政策が頭に浮かんだようだ。
やはりティメリアは優秀であり、使える部下である。
「話が早くて助かる。すぐに遷都に関する計画をまとめ、実行しろ。さきほども言ったが、いちいち俺の裁可を待つ必要はないからな。全てお前の裁量で計画を進めろ」
「はっ!」
かくしてティメリアとの会合が終了するのだった。




