第6章188話:レアアイテム
「1ヵ月後、政策の計画書を作成し、お前たちに提示する。その計画書に、俺がこの国で成すことを記すつもりだ。お前たちには、その内容に従ってもらう」
皆の反応はさまざまである。
困惑する者。
不安の色を浮かべる者。
楽観している者。
……などなど。
「伝えたいことは以上だ。就任式はこれにて終了する。解散していいぞ」
俺はそう告げて、王座を立った。
こうして就任式を即効で閉会するのだった。
謁見の間を出た俺。
ノルドゥーラ・ヴィシーとともに廊下を歩く。
「爆速で就任式が終わったな。参列した者どもは困惑していたが、あんなので良かったのか?」
とノルドゥーラが尋ねてきた。
俺は答える。
「くくく。過去最速で終わった就任式だろうな。いっそ非常識ですらある」
「自分で言うとは、さすがアンリだニャ。その様子だと、さっそくやりたい放題をするつもりかニャ?」
「もちろん俺はやりたいようにやるつもりだが……とはいえ、最初ぐらいは真面目に働こうと思っている」
「国王としての政務をおこなうと?」
「基本は、あの女宰相に丸投げするつもりだが……この国を改善する道ぐらいは示してやろうと思ってな」
現在、この国は豊かとはいえない。
ヴェイスの話によると、それはグラストンやハイドラ卿が国を切り売りし、私腹を肥やしていたからだという。
だからまず、グラストンたちによって痛めつけられた国の財政を立て直さなければならない。
財政を立て直すための道筋を示す――――
それが王となった俺の仕事だ。
「なるほどニャ。……ところで、いま何処に向かっているのニャ?」
俺たちは廊下を歩いている。
俺が向かっている先は―――――
「宝物庫だ」
「宝物庫?」
「忘れたか? 俺は王になりたいから総合闘技大会を制したわけではない。俺の当初の目的は、王室に眠るレアアイテムの確保だ」
ベルナダ武人国の王室には極めて貴重なアイテムが眠っている。
それを確保したくて王になったのだ。
国王として贅沢な暮らしをしたいから、総合闘技大会に出場したわけではない。
「そのレアアイテムとは何じゃ?」
とノルドゥーラが聞いてきた。
「翻訳アイテムだ」
「ふむ?」
「あらゆる国の言語を翻訳してくれる魔法のアイテムだ」
地球がそうであるように、異世界でも言語の違いはある。
俺は追放されるまで貴族令息として英才教育を受け、いくつかの言語を習得している。
……が、もちろん異世界の全ての言語を覚えることは不可能だ。
しかし宝物庫の翻訳アイテムを入手すれば、全ての言語に対応することが可能になる。
これから異世界の長い人生の中で、世界各地を旅するなら、絶対に欲しいアイテムだろう。