第5章184話:国王決定戦5
俺はグラストンの訴えには答えない。
代わりに別の言葉を返す。
「お前は弱くない。その強さには一定の敬意を払う価値がある。ただ、相手が悪かっただけだ。俺がここに来なければ、お前はずっと最強でいられただろう」
そして俺は宣告する。
「せめて栄えある死をくれてやる」
「黙れえええええェェッ!!!!」
グラストンが絶叫しながら殴りかかってくる。
そんなグラストンを、俺は拳の強打で打つ。
「ぐはぁっ!!?」
みぞおちに突き刺さる一撃。
完全に入った。
さすがにグラストンも、もう反撃はできないだろう。
これで決着だ……
と思っていたが。
「……!」
グラストンが最後の力を振り絞ったか。
俺の胸元を、手のひらで押してくる。
軽く突き飛ばされる。
今のはなんだ?
攻撃とは思えない。
違和感のある突き飛ばしであった。
俺がいぶかしげに思っていると。
「!?」
ズドォオオオオオオオオオオンッ!!!!
と視界が青色に染まった。
青い炎が俺を包み込みながら、まるで柱のごとくそそり立つ。
天を貫くほどの高さまで、青炎の柱が燃え盛っていた。
「ははははははははは!」
グラストンが高笑いする。
「死ぬのはお前だ……アンリ! ふははははははははッ!!」
<観客視点>
空の雲にまで届くような青い炎の柱。
アンリを飲み込む炎柱に、観客たちがどよめく。
「え? なんだこの技?」
「魔法?」
「国王の魔法か?」
「たぶんそうだろ?」
「国王ってあんな魔法も使えるんだ?」
「すげー」
驚く者。
戸惑う者。
賞賛する者。
観客の反応はさまざまだった。
ここまで打撃の応酬だったのに、急にグラストンが別種の攻撃をおこなったからである。
しかしあの青い炎柱は、きっとグラストンの魔法攻撃なのだろうと、観客たちは認識した。
だが……
一部、別の理解をする者たちもいた。
ディオネ、クレミュアである。
「クレミュア……アレは」
「ええ。アレはSランクの武器『エウティリア』についている、Sランクの魔法よ」
武器にスキルや魔法がついていることもある。
グラストンの使った魔法は、エウティリアという武器に宿っているSランク魔法である。
ちなみにエウティリアは"武器"といっても、剣や槍のような形ではない。
四角くて平たい石のような形をしている。
そしてエウティリアを所持している状態で、相手に触れるだけで魔法は発動する仕様だ。
だからグラストンは、エウティリアをポケットに入れた状態でアンリに触れ、青い炎を発生させたのだろう……と推察される。
ディオネは言った。
「Sランクの武器は持ちこみ禁止なのではないのか?」
「そう司会の人が言ってたわね。だからアレは――――国王による反則行為ということよ」
そう。
グラストンは、使ってはいけないSランクの武器を持ち込んだ。
そしてアンリに対して、その武器を行使したのだ。
「勝ちたいからって、勝負を穢したわね」
グラストンは脳筋のような性格をしている……と勘違いされているが。
実際は卑怯で狡猾な性格だということを、ほとんどの者は知らない。
たとえ反則をしても、審判にバレなければ勝ちだと考えている。
それがグラストンという戦士の本性なのである。