第5章177話:開幕の説明
そして。
「ヌォオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアッ!!!」
虎のように。
獅子のように。
天へと吠える。咆哮する。
右足を振り上げ、振り下ろす。
四股を踏むような動作。
地面に振り下ろした足を中心に、ドォンッと凄まじい音を立てて、半径30メートルほどの地面が陥没した。
周囲に風圧が吹き荒れる。
「ふうー……ッ」
息を吐くグラストン。
雄叫びと足踏みによって、完全に集中力が出来上がった。
現在のグラストンには凄まじい戦意と鬼気と闘気がみなぎっている。
<アンリ視点>
裁判所を出た俺は、服を着替えて、その足で闘技場へとやってきた。
現在の俺は冒険者のような服装をしている。
腰には大会側が用意した剣を携える。
この状態で、俺はグラストンの前に立っている。
今しがた、ちょうどグラストンが足踏みをして、地面を陥没させたところだ。
グラストンは卑怯な手を使うヤツだが、さすがに武人国でトップに立っただけあって、あっという間に集中力が出来上がった。
腐っても超一流の戦士というわけだ。
「挑戦者アンリよ」
グラストンは告げた。
「よくぞ俺のもとまでたどり着いた。お前と国王決定戦を争えることを、嬉しく思うぞ!」
戦士としての顔つきになったグラストン。
俺がやってきたことへの疑問や困惑や動揺は、もう消えている。
グラストンは言った。
「時間だ。大会の儀礼にのっとって、まずは挨拶をおこなうことにしよう――――審判?」
「は、はい!」
審判の女性が、返事をする。
そして『拡声の魔石』を利用しながら、宣言した。
「それでは、時間になりましたので――――これより、国王決定戦を開会いたします!」
「「「うおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」
観客たちが歓声を上げた。
いよいよ国王決定戦の開幕だ。
審判の女性が告げる。
「ルールの最終確認をします。国王決定戦は、国王を決める戦いで、どちらかが死ぬまで続きます。生き残ったほうが次期国王となります。グラストン国王が勝利すれば現状維持、アンリ選手が勝利すれば新国王の誕生です」
重要となるのは、国王決定戦はどちらかが死ぬまで続く……ということだ。
つまり、この戦いでは必ず相手を殺さなければならない。
さらに審判は説明を続ける。
「なお、国王決定戦では、自分が使用する武器や防具の持ち込みが自由です。大会が用意した武具を使う必要はありません。ただしAランク以下の装備を使用することが義務付けられています」
そのルールについて、俺は以下のように解釈する。
(Aランク以下の装備に限定するというのは、国王が有利になりすぎないための処置だな)
国王側には税金という名の財力があるので、AAランクやSランクなどの超強力な装備を用意しやすい。
すると国王は、実力ではなく、装備によるゴリ押しで勝利することも可能になる。
強い武具を装備できるステータスや財力を持つこともまた実力と言えるが、そうはいってもさすがに公平性に欠けるという判断なのだろう。