第5章174話:別視点
<グラストン視点>
――――闘技場。
この日、国王決定戦がおこなわれる。
対戦するのは国王グラストンとアンリだ。
勝利した者が、次の国王となる。
なお開始時間は朝10時である。
――――開始15分前。
選手入場が、司会の女性によって宣言される。
グラストンが入場した。
堂々たる威風をなびかせながら、闘技場の中央付近まで歩き、立ち止まる。
グラストンの登場に、会場は盛大に盛り上がった。
観客席はもちろん満員なので、その盛り上がりは会場全体を震わせるものだった。
――――しかし、それから10分が経過した現在。
その盛り上がりは、一転、静まり返っている。
むしろどよめきや不穏な空気がただよっていた。
なぜなら、アンリの姿が見えないからだ。
10時になったら国王決定戦が開始される。
そろそろ10時になる。
なのにアンリがやってこない。
もしアンリがこのまま来なければ、試合がおこなわれないまま、グラストンの不戦勝になる。
試合が流れてしまうのではないかという不安が、会場全体に広がっているのだ。
(くくく。アンリが来るわけがない)
とグラストン国王は内心、嘲笑した。
(裁判の開始時間は9時。そこから最低でも2時間以上、審議しなければならない。これは精霊が決めたルールだ)
なお、精霊のルールを知らない者には適用されない。
知らなかったでは済まされないのが法律というものだが、精霊法だけは例外で、『知らなかったら許される』のだ。
しかしハイドラ卿は、アンリにルールを伝えただろう。
裁判は2時間以上、必ずおこなわなければならないと―――――
つまりアンリは精霊法を知ってしまったわけで、その状態でルール破りをしたら、精霊によって罰が下される。
『ルールを知った者がルールを破る』ことを、精霊は許さないからだ。
(アンリは試合開始には間に合わない。どうあっても……だ)
アンリが裁判に参加した時点で、勝敗は決している。
国王決定戦はグラストンの不戦勝、アンリの不戦敗で終わる。
(強さとは腕力と筋肉……などと考えているバカが多い国だが、強さとは、こういうことだ。だから俺が王にふさわしいのだ)
馬鹿が強いだけなのは、強さとは呼ばない。
グラストンに言わせれば――――脳筋は弱い。
強さのうえに賢さを乗せるからこそ最強なのだ。
狡猾さがあれば、戦わずして勝利することも可能なのだから。
まさしく今回のように。
ふはははははははははは。
(さて……そろそろ大会終了の宣言をしてやろう)
まだ国王決定戦の開始時刻ではない。
……が、もうアンリは来ないだろう。
ゆえに、グラストンが勝利宣言をしても構わないはずだ。