第5章173話:戦士精霊2
「何故、俺に攻撃を仕掛けた?」
と俺は尋ねた。
「あなたは裁判を1時間で終わらせたでしょう?」
「……? それがなんだ?」
「裁判は必ず2時間以上、おこなわなければならないと、あたしが決めたのよ。そのルールを破った者には天罰を下すことにしているの」
ふむ……
そういえばハイドラ卿が、裁判前に宣言していたか。
俺はハイドラ卿のセリフを思い出す。
『ベルナダ武人国における裁判は、必ず、2時間おこなわれる。裁判時間は、最低でも2時間以上とすべし……という掟が、精霊によって定められているからだ』
あれは冗談で言っていたわけではなく、本当だったらしい。
「なるほどな。つまり……これが天罰だと」
精霊セラフィナが俺に殴りかかってきたのは、裁判時間を2時間未満で終わらせた罰ということか。
「ええ、そうよ」
「……ならば、どうする? 天罰を続けるか?」
と俺は尋ねた。
即座に空間切断の準備をしておく。
しかし。
「いいえ。そのつもりはないわ」
とセラフィナが否定した。
「……気が変わったのか。何故だ?」
「あたしの攻撃を受けきる人間だったなんてわかったら、殺す気も失せるわよ。むしろ、あなたに興味が湧いてしまったわ」
興味……
俺は怪訝そうにセラフィナを見つめる。
セラフィナは、物憂げな表情を浮かべた。
「あなたは王を目指している」
そう前置きをして、セラフィナは語る。
「今の国王はつまらない。アレはそこそこ人間の中では強いけど、中身は欲にまみれている。あのように精神の卑俗な国王に、あたしは祝福を授けたいとは思わない」
祝福……というものが何なのかはわからない。
ただセラフィナがグラストン国王を嫌っていることはわかった。
「だから、あなたが国王になりなさい。あたしは、ベルナダの新国王となったあなたが欲しいわ」
「まるで告白だな。俺の妃にでもなるつもりか?」
「ふふふ。それも面白いかもしれないわね?」
まんざらでもなさそうなのが怖いな。
初対面でやたら興味を持たれてしまったようだが、それが吉と出るのか凶と出るのか、俺には判断がつかない。
「あなたのゆく道を、精霊として祝福してあげるわ。とりあえず、国王決定戦を終わらせなさい。あなたならば、グラストンに圧勝できるでしょう?」
「そうだな」
俺は断言する。
グラストンに負けることなど、万に一つも有り得ないだろう。
「頂の強さを見せ付けなさい。あたしは、新しい玉座であなたを待っているわ」
そう述べて、セラフィナが去っていった。
俺は、闘技場へ向かうのだった。