第5章165話:裁判3
俺は思った。
(そろそろ動くか)
これ以上のんびりしていたら国王決定戦に遅れてしまう。
いい加減、裁判ごっこにも飽きてきたことだし、そろそろぶっ潰してやるとしよう。
……と。
そのときだった。
「くくく」
とハイドラ卿が笑った。
「堂々巡りの質疑だな。このぶんだと、おぬしに裁判をひっくり返す打開策など無かったようだ」
と告げて、さらにハイドラ卿が続ける。
「結局、私の勝ちということだ。おぬしは強いのかもしれないが、強さだけでは本当の意味での勝利を掴み取ることはできぬ。ベルナダ武人国は、戦士を中心とする気風ゆえに、馬鹿の集まりのように言われることもあるが、実際はそう甘くはないのだよ。他国と同様に権謀術数がうごめいているし、政界や貴族社会は魔境だ。わかるだろう?」
「いいや。わからんな」
と俺は即答する。
ハイドラ卿が眉をぴくりとさせる。
「何?」
「こんな浅はかな策略を、権謀術数などと勘違いしているお前は、愚かだと思われても仕方ないだろう。勝ち誇っている今のお前は、ただただ哀れでしかない」
「かははははははは!!」
とハイドラ卿が大笑した。
「負け惜しみにも程があるな! 何もできず、ただ私をみっともなく悪罵することしかできない無能が」
笑みを浮かべながらハイドラ卿がさらに続ける。
「もう30分が経過した。残念だったな、殺人犯? このまま裁判がだらだらと続くため、おぬしは国王決定戦に間に合わない。最終的な判決も有罪……死刑で終わるだろう!!」
「それは違うな」
と俺は否定した。
さらに俺は宣言する。
「俺は無罪判決を勝ち取り、国王決定戦に出場する」
するとハイドラ卿が、ふたたび笑い転げた。
「くくく。無罪判決を勝ち取るだと? いかにして? おぬしの味方など、どこにもいない。おぬしが有罪として死刑宣告を受けるのは必然であり、決定事項なのだよ! どんな足掻きをしても―――――」
ハイドラ卿が生き生きと述べていた――――
そのときである。
裁判長が、ハイドラ卿の言葉をさえぎるように告げた。
「私は、アンリが無罪だと思う!!」
「!?」
喝破するような大声で、俺の無罪を宣言した裁判長。
ハイドラ卿が一瞬、押し黙った。
ハイドラ卿が尋ねる。
「裁判長……今なんと?」
「アンリを無罪にするのが妥当だと申し上げた。聞こえなかったのかな、ハイドラ卿?」
「な……」
とハイドラ卿が強い困惑の色を浮かべる。
他の裁判官たちも、裁判長の主張に混乱を示した。
ただ一人、俺だけが内心でほくそ笑む。
(裁判長はもう、俺の傀儡だ)
――――先日の試合。
クレミュアに魔力硬直をかけられたとき、俺はサイコキネシスによって、自分の身体を操り人形のごとく操作する技法を編み出した。
あのときは自分自身をサイコキネシスで操ったが……
当然それは、他人にも通用する技である。
つまり今回、サイコキネシスによって裁判長を、俺の支配下に置いたわけである。
裁判長の肉体も。
声も。
俺がサイコキネシスによって操作する。
俺の都合のよい操り人形として。