第5章164話:裁判2
するとハイドラ卿が言った。
「いいや。しっかり時間をかけて審議をすべきだろう。精霊が決めたとおり、最低2時間はな」
裁判の時間は最低2時間。
精霊が決めたというルール。
(俺を潰したいなら、さっさと有罪判決を出せばいいはずだが……本当に精霊の掟に縛られているのだな)
おそらく精霊は、きちんと審議をさせるために2時間というルールを作ったのだろう。
ろくな審議もせず、即座に有罪とするような、ずさんな裁判を失くすためだ。
(とはいえ、別の形で腐敗が進行しているようだが)
ハイドラ卿のような貴族が裁判所を支配していることで、結局まともな判決は出なくなっている。
絶対に2時間の審議をしなければならないというのは、逆にいうと2時間さえ審議すれば問題にならないということでもある。
実際、明らかにハイドラ卿は、そういうルールの不備をつくような立ち回りをしている。
(まあ裁判官を買収し、貴族や権力者にとって都合のよい判決を出させるのは、どこの国でもありがちだから、この手の工作は珍しいことではないがな)
と俺は思った。
それからしばらく。
裁判官から、くだらない質疑応答が続いた。
「なぜ殺人に及んだのだ?」
「俺はやってない」
「嘘をつくな。やったと証言するまで質問は続くぞ。さあ、どんな動機で殺人をおかしたのだ? 答えろ!」
というアホな質問を繰り返してくる。
こういうのは取調室でやるべき質問だろう、と俺はふたたび思う。
―――――そして30分が経過する。
審議は堂々巡りだ。
「なぜ殺人に及んだのだ?」
と裁判官が聞いてくる。
それに対して。
「俺は何もしていない」
と答える。
さっきのループである。
「嘘をつくな!」
と裁判官たちもさきほどと同じ言葉を吐く。
しょせん裁判官たちも、真面目に質疑などするつもりはない。
彼らは2時間ものあいだ、テキトーに時間を潰したいだけだ。
全てが茶番な裁判である。