第5章161話:相手の策略
その日の夕方。
俺は宿屋でのんびりと過ごす。
ベッドに腰掛ける俺。
「いよいよ明日が国王決定戦じゃな」
と、テーブルの椅子に座ったノルドゥーラが話を振ってきた。
ヴィシーがぴょんとベッドに飛び乗ってきて、告げた。
「アンリが勝つことはわかりきってるが、一応、応援しておくニャ! 頑張るニャ!」
「ああ……」
戦いの勝ち負けについては心配していない。
俺の意識は別のところにある。
ハイドラ卿が何をしてくるのか……だ。
今朝のハイドラ卿の発言を考えると、何らかの妨害行為をしてくることは明らかだ。
(力でねじ伏せるのは簡単だ。しかし、絡め手を使ってこられると、俺の勝利は確実とはいえない)
せめてハイドラ卿がどんな手を使ってくるかわかればいいのだが……
ヴェイスに聞いてみるか?
と、思ったそのときだった。
慌ただしい足音が、部屋の外から聞こえてきた。
そして。
バタンッ!!
と、俺の部屋の扉が開かれる。
部屋に乗り込んできたのは騎士と衛兵だった。
戦闘に立っている男性騎士が言った。
「アンリは居るか!?」
俺は椅子から立ち上がる。
「俺がアンリだが?」
「そうか。……お前に殺人の容疑がかかっている」
「なに?」
殺人の容疑か。
俺は人を殺したことがない……とはいえない。
むしろ殺しまくってきた。
心当たりがありすぎる。
ただ、ベルナダ武人国ではまだ、人殺しなどおこなっていない。
容疑がかかるはずがないのだが。
「王都の路地裏で女性の死体が見つかった。聞き込み調査をしたところ、現場にお前がいたそうじゃないか」
「身に覚えのない話だ」
と俺は即答した。
この王都では、俺は殺人をおこなっていない。
言いがかりである。
すると男性騎士が険しい声で告げてきた。
「シラを切るつもりか?」
「やってないことをやってないと言ったまでだ」
「しらじらしい。とにかく衛兵の詰め所にまで来てもらおうか。抵抗したら、公務執行妨害とみなす」
「ふむ」
なるほどな。
おそらく、これはハイドラ卿の差し金だろうと俺は推測した。
俺を殺人の容疑で逮捕して、拘束し……
牢屋に俺を閉じ込めて、総合闘技大会に参加できなくする狙いだろう。
(こういう手で来たか)
と俺は心の中で微笑む。
まあ、せっかくだから相手の策に乗ってやろう。
俺は告げた。
「わかった。抵抗はしない。詰め所に来いというなら、素直に応じよう」
「そうか。利口なようで助かる」
男性騎士は俺の肩を掴んできた。
そして歩かせてくる。
そのときノルドゥーラが口を開いた。
「いくのか?」
「仕方あるまい」
と俺は一瞬、立ち止まって答える。
「止まるな、とっとと歩け!」
と男性騎士が俺を蹴飛ばしてきた。
俺は歩みを再開する。
そして俺は、衛兵の詰め所へと連行されるのだった。