第5章160話:対面
それから1時間後。
俺はヴェイスと再会した。
目的は、ハイドラ卿の顔を確認することである。
俺はハイドラ卿の顔を知らない。
これから戦うことになる相手の顔ぐらいは把握しておくべきだと思ったので、ヴェイスに協力してもらうことにした。
ヴェイスの案内により、王都にある一つの屋敷にやってくる。
それはハイドラ卿の屋敷であった。
「ハイドラ卿は、いつも朝、決まった時間に王城へと出勤する。ちょうどこの時間にハイドラ卿は屋敷を出るころだろう」
とヴェイスは語る。
俺たちは物陰に隠れて、屋敷の正門を眺める。
「お、来たようだ」
とヴェイスは言った。
俺は正門を注視する。
一人の老人男性が、護衛を引き連れて屋敷から出てきた。
俺は確認する。
「あれがハイドラ卿か?」
「そうだ」
とヴェイスが肯定した。
ハイドラ卿は高貴な服に身を包んでいる。
いかにも権力と欲望に飢えた顔をしていた。
俺はその顔をばっちりと記憶する。
そのときだった。
ハイドラ卿が、こちらに視線を向けてきた。
「そこにいるのは誰だ?」
と問いかけてくる。
どうやらハイドラ卿は、こちらの気配に気づいたようだ。
「まずいな。バレたぞ」
とヴェイスは焦ったように告げた。
俺は考える。
このままトンズラしてもいいが……
尻尾を巻いて逃げるのは、性に合わないとも思った。
だから俺は言った。
「ヴェイス、お前は帰れ」
「え?」
「俺はヤツに会っていく」
そう告げてから、俺は物陰から姿をあらわすことにした。
ヴェイスが引き止めんとする声を発したが、俺は無視して突き進む。
ハイドラ卿と目が合った。
俺はハイドラ卿に近づく。
護衛が、ハイドラ卿を守るように前に出る。
俺は立ち止まった。
護衛を挟んで、俺とハイドラ卿が対峙する。
「ほう。ネズミはおぬしか」
とハイドラ卿がつぶやいた。
俺は尋ねた。
「お初にお目にかかる、ハイドラ卿。俺のことは知っているな?」
「さて、どうだろうな」
とハイドラ卿がシラを切る。
「お前が俺に対して放った刺客は、俺が手厚く葬ってやった。感謝してもらいたい」
実際はヴェイスとレナは生かしたままだが、殺したという設定で話す。
「ふむ、刺客? はてさて何のことかな? 身に覚えがないが」
とわざとらしくハイドラ卿がとぼけた。
俺は不敵に微笑んで、告げた。
「一つだけ言っておく。お前に勝利はない。俺に噛み付いたことを後悔することになるだろう」
そして俺はきびすを返した。
その背中にハイドラ卿が言ってきた。
「ならば、私からも言っておこう。おぬしは、王権の強さと絶対性を甘く見ている。力だけではどうにもならない現実を、思い知ることになるだろう」
「そうか。それは楽しみだな」
と肩越しに振り返った俺は、そう告げてから、立ち去っていった。