第5章159話:会話内容
<アンリ視点>
国王決定戦を明日に控えた日。
朝。
宿屋。
俺は椅子に座って、考え事をする。
頭に浮かぶのは、昨日のことだ。
ヴェイスたちが語ってくれた内容を、俺は思い出す。
◆◆◆
ヴェイスの情報によると。
国王グラストンとハイドラ卿が、俺の暗殺を企てている黒幕のようだ。
政界や貴族社会には派閥が存在する。
ベルナダ武人国においても、派閥はある。
なかでもハイドラ卿の派閥が最も巨大であり、国王からの信頼も厚いそうだ。
「グラストンとハイドラ卿は、この国の膿だ」
とヴェイスは語った。
「ヤツらが貴族社会を牛耳っているうちは、この国は少しずつボロボロになっていくだろう」
ヴェイスの語るところによると、グラストンとハイドラ卿は、私利私欲のために国庫を食いつぶしているようだ。
さらには諸外国と不平等条約を結んだりもしている。
そんなことをしてもベルナダ武人国に得はないが……
不平等条約を締結するのと引き換えに、諸外国から、グラストンとハイドラ卿の懐に、莫大な富が転がり込んでいるらしい。
つまり二人が、自分たちだけ肥えるために、国を安売りしているというわけだ。
「不平等条約のせいで国がボロボロになっても、グラストンとハイドラ卿だけは巨万の富を保有し続けられる。いざ国が破綻しても、カネさえあればどうとでもなるからな」
カネがあれば海外へ亡命することも簡単だ。
国なんて捨てて、いつでもトンズラすることができる。
だからグラストンとハイドラ卿は、国を食いつぶすことに何らためらいを抱かないのだという。
「そんなやつらが国のトップなのに、誰も抵抗しないのか?」
と俺が尋ねた。
俺の質問にレナが答える。
「グラストンは単純に戦闘力が高いし、ハイドラ卿は権力が強大だから。誰も敵に回したいとは思わないのよ」
ふむ、なるほどな。
武力と権力を両方兼ね備えている相手というのは、確かに厄介だろう。
「俺とレナも、そういう腐った体制であることを理解したうえで、生計を立てている身だ。あまりグラストンたちを悪く言える立場ではないな」
とヴェイスは乾いた笑みを浮かべた。
俺は言った。
「ならば、俺の勝利を楽しみに待っておくといい。多少は風通しのいい国を作ってやる」
「ははは、そりゃ楽しみだ。期待しておこう」
とヴェイスは笑った。
◆◆◆
……以上が、昨日ヴェイスたちと交わした会話内容である。
(ゲームではグラストン国王の名前は出ていたが、ハイドラ卿という名の貴族は登場していない)
おそらくゲームの段階では、ネームドキャラクターではなくモブだったのだろう。
しかしゲームではモブでも、異世界では普通に強敵として現れることもある。
今回がそういうケースというわけだ。
(ハイドラ卿が計画した暗殺は失敗に終わった。しかし、これで国王どもが何もしないまま終わるとは思えないな)
と俺は推定する。
(国王決定戦は明日だ。何か手出しをしてくるなら今日のうちだろう)
そもそも国王決定戦に出場させたくないのならば、暗殺だけにこだわる必要はない。
要は俺を出場停止にすればいいのだから、やりようはいくらでもあるだろう。
注意しておかなければならない。