第2章17話:聖女視点2
<聖女視点・続き>
聖女は憤る。
(アンリ……ユーデルハイト……あなたは、とんでもないことをしてくれましたね)
――――勇者となる存在には、精霊より刻印が与えられる。
この時代に、その刻印を与えられたのがデレクであった。
ゆえにデレクは当代の勇者として認定されていたし。
実際、すさまじい成長速度で実力を上げていた。
齢16歳にして、王国の第一騎士団長すら凌駕する剣技を有していたことは、上流社会では有名な話だ。
なのに。
そんなデレクが失われるなど……
勇者が殺されるなど……
あってはならない。
許されざる大罪である。
(勇者殺しの罪……決して、許してはなりません。急いで女王陛下へ報告しなければ)
聖女は立ち上がる。
祭壇をあとにして、その足で王城へと向かった。
精霊から得られた情報を、聖女は女王に報告した。
結果。
勇者が本当に死んだのか……ということについては、調査と事実確認が必要という流れになった。
本来、勇者が死去したなどという報告は、戯言と受け取られ、一笑に付されるような話。
しかし、その報告をおこなったのが聖女となると話は別だ。
勇者の死去は、おそらく事実なのだろうというのが、貴族たちの共通見解となった。
よって、後日。
ルドラール王国の上層部は、さっそくアンリ討伐に向けて動き出した。
傭兵や冒険者にもアンリの討伐依頼を出す。
王国の騎士団も、アンリ討伐に乗り出すことになった。
また、勇者死亡の事実確認が終われば……
アンリに対する国際的な指名手配もおこなわれる予定となる。
もちろんルドラール王国の者たちは皆……
アンリが、最強能力である【サイコキネシス】を使えるようになったことを知らない。
アンリが勇者を殺すことができたのも、何らかの卑怯なだましうちによるものだと推測された。
たとえば、デレクの飲み物に毒を盛ったとか。
たとえば、魔物との戦いで瀕死になっていたデレクに、背後からトドメを刺したとか。
……誰も、アンリにまともな実力があるとは思わず。
『アンリのような雑魚を殺すなんて、容易い仕事だ』
と信じ、アンリ討伐へと乗り出すのだった。