第5章157話:交渉2
「そこは……信じてもらいたい」
とフードの男は告げる。
だが、難しい相談である。
そのとき。
「それなら、わらわに任せるニャ」
とヴィシーが言ってきた。
「何をするつもりだ?」
「催眠をかけるニャ」
「催眠……」
そういえばヴィシーは【催眠魔法】が使えるのだと、俺は思い出した。
俺にはサイコキネシスによる防護があるので通用しないが……
耐性のない人間に使ったら、凶悪な魔法である。
「いくニャ」
ヴィシーが催眠魔法を発動した。
次の瞬間、フードの男が弛緩する。
「催眠にかかったようだニャ。質問をするニャ」
「……ああ……」
とフードの男が茫洋と答えた。
ヴィシーが質問をおこなう。
「お前はさきほど『アンリの配下につく』と宣言したが、それは本心かニャ?」
「……ああ……本心、だ……」
と男がぽつぽつと答えた。
催眠にかかっているためか、たどたどしい口振りだ。
「アンリを裏切らない、と誓えるかニャ?」
「もちろん、だ……誓う……」
フードの男が肯定の言葉を返した。
「もういいニャ。催眠を解くニャ」
とヴィシーが催眠の解除魔法を発動した。
フードの男が正気に戻る。
ヴィシーは俺に言ってきた。
「どうやら、こいつに裏切る意思はないようだニャ。少なくとも、お前の下につくというのは本気のようだニャ」
「ふむ」
ヴィシーの催眠魔法にかかった状態でも、フードの男は俺の配下につくと宣言した。
催眠状態で嘘をつくことは難しいだろう。
つまりフードの男に、よからぬ腹心はないということだ。
「で……どうするのニャ? こやつらを仲間にするのかニャ?」
とヴィシーが俺に聞いてきた。
俺は少し悩んでから、答えた。
「……いいだろう。取引に応じよう」
そして補足する。
「だが、一つだけ言っておくべきことがある」
「なんだ?」
「お前たちは許すが、お前たちの雇い主は許すつもりはない。必ず殺す。それでもいいか?」
「構わない。今の雇い主に対して、それほど忠義があるわけではないからな」
「そうか」
俺はあいづちを打ってから、言った。
「では交渉成立としよう。まずは名を名乗れ」
まだ俺は、フードの二人の名前を聞いていない。
だから名乗りを要求した。
「ヴェイス。レナだ。……レナの手当てをしてもいいか?」
「ああ。そうしてやれ」
レナは俺の一撃を食らって、かなりの重傷を負っている。
おそらくアバラと腕が折れている。
ヴェイスがレナに近づき、ポーションを飲ませた。
上等なポーションであり、レナが即座に回復する。
「では、情報を聞こうか。お前たちが持っている情報を、全て俺に寄越せ」
「……わかった」
ヴェイスがうなずく。
そしてヴェイスは、自分の雇い主であるハイドラ卿……
さらに国王について語り始めるのだった。