第5章156話:交渉
<アンリ視点>
フードの二人が戦闘不能となる。
勝ち目がないと理解したか、戦意も喪失している。
俺は攻撃の手を止めた。
「どうした? もうノびたのか?」
と俺は尋ねた。
そんな俺の横に、ヴィシーが飛び降りてくる。
ヴィシーはニャーと鳴いてから、告げた。
「もう終わったのかニャ。わらわは何もしてないニャ」
「くくく。お前が暴れるチャンスを奪ってしまったな」
と俺は笑う。
ヴィシーはフードの二人を見つめながら、告げた。
「お前たちも、アンリを襲おうとした愚かさを、身をもって理解しただろうニャ。というか、そんな蟻んこみたいな実力で、よくアンリに挑もうと思ったものだニャ。身の程知らずにも程があるニャ」
彼らの実力を蟻にたとえるヴィシー。
それに対してフードの男は笑った。
「くく……蟻か」
さらに彼は告げる。
「たしかにお前たちから見れば、俺たちとの戦いなど、それこそ猫が蟻を踏み潰すようなものだろう」
フードの男は戦意を失っていた。
そのうえで彼は要求してきた。
「取引をしたい」
「取引だと?」
「ああ。こちらの情報を全てあんたに授ける。その代わり、俺たちの命を見逃してほしい」
命乞い。
その要求を、俺はせせら笑う。
「取引になってないな。俺はもともと、お前たちを叩きのめして、お前たちの持つ情報を全て引き出すつもりだ」
「それは違う。もしも取引に応じてもらえないなら、俺とレナは、今すぐ自害する」
「……」
俺は目を細めた。
フードの男は告げる。
「だが取引に応じてもらえるならば、俺たちは今後、あんたの配下に入ろう。あんたに尽くすことを誓う」
……なるほど。
命を見逃さなければ自害する。
命を見逃すならば、情報を授けたうえで、俺の手下になる。
取引としては、一応は成立している形だ。
「お前たちが雇い主を裏切って、こちらに寝返るということか?」
と俺は尋ねた。
「そうだ。――――戦って確信したよ。あんたは、現国王より強い。必ず次期国王になるだろう。だったら今の雇い主のもとに仕え続ける理由はない。あんたの下で働くほうが賢い選択だ」
ふむ。
(俺の配下に……か)
こいつらを仲間にするメリットは、今はない。
しかし、ゆくゆく俺が国王になったとき、こいつらは使えるかもしれない。
俺やヴィシーより弱いというだけで、実力は申し分ないからだ。
それに。
(こいつらを殺すことにあまり意味はないからな)
この二人は雇われた身だ。
しょせんは末端の存在でしかない。
大元である雇い主を潰さなければ意味はない。
ただし。
「お前たちが俺を裏切らない、という保証がないな。寝返るフリをするだけかもしれない」
と俺は懸念を口にした。