第5章154話:別視点
フードの男が叫んだ。
「いったん退くぞ!!」
フードの女もうなずく。
二人して逃亡を開始した。
「逃げたニャ」
とのんきにヴィシーがつぶやいた。
「追いかけるぞ。ヤツらを雇ったのが誰なのか、知りたいからな」
「了解ニャ!」
俺とヴィシーは、フードの二人を追い始めた。
<フードの視点>
ヴェイスとレナは森の中に逃げ込んだ。
全速力で逃亡する。
背後から追いかけてくるのは、アンリとヴィシーである。
殺意と戦意を垂れ流しながら、2体の怪物が追ってくる。
ヴェイスとレナは恐怖心に駆られていた。
追いつかれたら死が待っていると確信していた。
「まさか、猫があんな怪物だったなんて……!」
とレナが恐怖心に顔を引きつらせながら言った。
魔物の中でも、言語を解するのは上級モンスターだと決まっている。
竜に匹敵するか、あるいはそれ以上の強さを持っていることは間違いない。
「ああ。あの猫の飼い主がアンリだとしたら、アンリもまだ実力を隠している。まともにやり合ったら勝ち目がないだろう」
さきほどのヴィシーは、アンリの強さを認めているような口振りだった。
そして、それは事実なのだろう。
総合闘技大会を観戦していても、いまだアンリの実力の底が知れたわけではない。
アンリは魔力量が低いが、その弱点を補って余りある秘術を隠しているに違いない。
その秘術の正体を掴めなかったことが悔やまれる。
わかっていれば対処のしようもあっただろうに。
「とにかく今は逃げるしかない」
ヴェイスはそう告げてから、樹木の上に飛び乗った。
暗殺者として磨いた技術の一つ――――樹上歩行である。
レナも同様に樹上に飛び乗る。
枝から枝へと飛び移りながら、素早く森林地帯を駆けていく。
「はははははは! 面白い逃げ方をするものだ!」
アンリが笑いながら、樹上に飛び乗る。
そしてヴェイスたちと同様に、枝から枝へと飛び移る。
しかも、ヴェイスたちより遥かに滑らかな移動だ。
まるで宙を滑空するような、流れるような動作で樹上を移動している。
これはサイコキネシスによって、枝から枝へと吸い付きながら移動しているのだが……
サイコキネシスの存在を知らないヴェイスたちには、とんでもなく洗練された移動にしか見えない。
そして、そんな洗練された樹上移動だからこそ、ヴェイスたちは逃げ切れない。
アンリがすぐ背中まで迫っている。
(あっという間に追いつかれた!!?)
ヴェイスは冷や汗を浮かべる。
樹上を移動するのは不利だと思った彼は、枝から飛び降りて、地面に着地した。
そのまま直進して逃げようとする。
しかし。
「!!」
ヴェイスの眼前に、アンリが飛び降りてくる。
行く手を塞がれた。