第2章16話:聖女視点
――――第2章――――
<聖女視点>
――――ルドラール王国。
神殿。
そこは水に囲まれた部屋であった。
部屋の大半が水没している。
入り口から伸びた道があり、部屋中央の祭壇へと続いていた。
祭壇の壇上には一人の巫女が膝をついていた。
祈りを捧げている。
「……」
彼女は【水幻の巫女】と呼ばれる、ルドラール王国の聖女である。
聖女は祈りによって、精霊からさまざまな情報を得ることができる。
そして……
この日、彼女は、ある重大な情報を精霊から授かることになる。
「……! そんな……!」
聞いた瞬間、聖女は目を見開いた。
彼女が祈りによって得た情報……それは。
勇者デレクが死去したという情報。
「殺したのは……誰、ですか?」
精霊に問いかける。
すると精霊が、勇者殺しの犯人の名を答える。
……アンリ、と。
「アンリ? それは悪徳貴族として、国外追放となった……アンリ・ユーデルハイトのことですか?」
肯定の返事が返ってくる。
さらに聖女は尋ねる。
「なぜ……? なぜアンリは勇者を殺したのです!?」
返事はない。
答えが返ってこないことは、よくあることだった。
精霊は、断片的にしか情報を与えてくれない。
しかし。
精霊が授けてくれた情報に、偽りはない。
間違った情報を与えられたことは、かつて一度も無かった。
勇者を殺した犯人はアンリである―――――
それは紛れもない事実なのだろう。
アンリがデレクを殺した理由、動機なんて、どうでもいいことだ。
勇者を殺したのはアンリである――――という、最も重要な情報さえわかっていれば。