第5章145話:称賛
「さっきお前は言っていたな―――――俺に絶望を教えると」
「……ッ!」
「お前ごときの力で、俺に絶望を与えるのは無理だな。むしろ、俺がお前に絶望を教えることになる」
不敵な笑みを浮かべながら、俺はそう告げる。
するとクレミュアは、いきり立った。
「な、舐めないで! あたしは別に、剣技だって一流―――――」
しかしクレミュアが言い終わる前に。
俺はクレミュアに向かって、回転蹴りのハイキックを放った。
「かはっ!!?」
俺の蹴りがクレミュアのあごとこめかみに直撃する。
その一撃で、クレミュアは昏倒した。
完全に意識を刈り取るつもりで放った一撃。
しかしクレミュアは気絶していなかった。
「く……あ……そんな……あたしがこんな一瞬で、やられる、なんて……っ」
倒れたクレミュアが悔しそうな言葉を口にする。
だが意識は限界だったのか、やがてガクッと目を閉じて、気を失った。
クレミュアの戦闘不能を確認した女司会者が宣言する。
『決着!! 決着です! 決勝戦の勝者は、アンリ選手ぅうううううーーーーッ!!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおぉォォォォオオッ!!!!」」」」
歓声が爆発する。
観客たちが口々に言いあう。
「まじかよ!」
「一瞬で決着がついたな!」
「アンリが優勝か」
「絶対クレミュアが勝つと思ったのに……」
「すげーよアンリ。ほとんど無傷で勝ち上がってきてるじゃねえか」
「アンリって、そんな強そうに見えないのにな。魔力量も少なそうだし」
「アンリ国王が誕生するかな?」
「現国王も強いからな。でもアンリが次期国王になったら、それはそれで面白そうだ」
「ここまで来たら、俺はアンリを応援するぜ!」
「あたしもよ!」
アンリの優勝を祝福する声。
そんな歓声をよそに―――――
倒れて気絶したクレミュアを見下ろしながら、俺は思った。
(ザティルトは素晴らしい能力だった)
魔力硬直という状態異常を与え、敵を完全な金縛り状態にするスキル――――ザティルト。
たとえサイコキネシスの前に敗れたとしても、ザティルトが極めて強力な能力であることは疑いようがなく、賞賛に値する。
(それに、まだ何か能力を持っていたな)
察するに、クレミュアの能力はザティルトだけではない。
それを使わせずに倒してしまったので、確認できなかったが……おそらくザティルト以外にもスキルがあるのだろう。
実力は間違いなく高い。
「俺が王になった暁には、お前をそれなりの地位に登用してやる。楽しみに待っていろ」
そして俺はきびすを返す。
あふれんばかりの歓声と祝福が降り注ぐ中、俺は闘技場を悠々《ゆうゆう》と立ち去るのだった。