第5章143話:クレミュアの術
<アンリ視点>
『それではこれより、決勝戦を開幕いたします! 選手両名は、武器を構えてください!』
と女司会者の声が響いた。
クレミュアは双剣を構える。
俺はショートソードを構える。
互いに得物を構えた状態で、じっと相手を見据える。
観客の声が波のように引いていき、辺りは静まり返った。
そして。
開幕の火蓋が切られた。
『準備はいいですか? ―――――では、はじめッ!!!』
女司会者の開幕宣言。
観客たちが歓声をぶちあげる。
しかし、俺とクレミュアは動かず、互いに様子見をする。
(さて……まずはどう来る?)
俺は目を細めてクレミュアの出方をうかがう。
彼女が持っているのは小さな双剣だ。
ディオネのような巨大武器による二刀流ではなく、あくまで短剣を二本持っているというのがクレミュアの武器。
(想定されるのは手数による速攻か)
双剣は威力が落ちるぶんだけ手数で攻めることができる。
クレミュアはそういうスタイルかもしれない。
しかし、それだけならばディオネの下位互換だろう。
ディオネはパワーだけでなく、リーチも技術も速さも備えていた。
あれは二刀流の完成形であり、同じ剣術を扱うだけならば、クレミュアがディオネを越えることは絶対に有り得ない。
(ディオネには無い、何か特殊な戦術を期待したいところだな)
と俺は思った。
タイプと異なる敵と戦うのは面白い。
クレミュアには、ぜひ俺にとって未知の戦術を見せてもらいたいと思う。
「あなた、あたしが手数で攻めてくると思ってる?」
「……!」
クレミュアの言葉に、俺は眉をぴくりとさせる。
「だとしたら、見当違いよ。そもそもあたしの真骨頂は、剣術じゃない」
そしてクレミュアは告げる。
「あなたに絶望を教えてあげる」
不敵な笑みを浮かべながら、クレミュアが右の剣と、左の剣をカチッと打ち合わせた。
直後。
クレミュアを中心として波動のようなものが広がる。
その波動が俺に触れた瞬間。
なんと、俺の時間が止まった。
「―――――――――――――――」
動けない。
完璧な金縛りだ。
眉一つ。
指一本、動かすことはできない。
意識は起きているのだが……
身体だけは、まさしく時間が止められたような、石化させられたような、完全な硬直に陥ってしまった。
「あはははははは! どう? これがあたしの技――――ザティルトよ!!」
ザティルトなる技が俺に効いたと判断したクレミュアが、高笑いをする。