第5章141話:第1回戦後
その拍手喝采を受けながら、俺はディオネに告げる。
「お前の剣も悪くなかった。強かったぞ」
するとディオネは答えた。
「謙遜だな。私とお前では、大きな力量差がある。私が負けたのは運が悪かったわけじゃない。たとえ100回やっても、お前には1度も勝てないだろう」
まあ……間違った分析ではない。
なぜなら俺はまだ本領を発揮していないからだ。
空間圧縮や空間切断など、サイコキネシスの真骨頂は、今回の大会では封印するつもりだ。
俺が100%の全力で暴れることはない。
「俺が王になったときは、忠臣として活躍するといい。お前が掲げた『パワーと技術の融合』という理念は、俺も否定するところではないからな」
そう告げて、俺はきびすを返した。
一度も振り返ることなく歩き、闘技場のグラウンドをあとにするのだった。
闘技場のロビーにて、受付嬢に、俺が試合に勝利したことを報告する。
すると受付嬢は言った。
「準決勝第1試合、ご戦勝おめでとうございます。決勝は明日の午後……13時からとなります。遅れないようにご注意ください」
「ああ」
「武器の返却をお願いいたします」
「わかった」
俺は闘技場から借りたショートソードを返却する。
用が済んだので、闘技場を立ち去った。
宿屋に戻る。
「戻ったぞ」
「勝ったのか?」
とノルドゥーラが尋ねてきた。
「当然だ」
と俺は答える。
今日はもうやることがない。
ゆっくりと休む。
――――夕方。
ディナーの時間となる。
バルコニーに出る。
露天風呂の横にあるテーブルに、俺は座る。
この場所では、夕陽を眺めながら食事を楽しむことができる。
メニューは……
ベルナダ高原羊のラム肉・ソース和え。
ベルナダ高原羊のミルク。
小麦パン。
川魚と大根のスパイススープ。
山菜と高級野菜の盛り合わせ。
ブドウの氷菓。
……以上である。
ノルドゥーラが俺の対面に座って食事をする。
ヴィシーは床で食事だ。
肉やミルクを乗せた食器が床に置かれており、それをはむはむと食べている。
「む……このミルク。変わった味がするニャ!」
「羊のミルクはベルナダ王都の名物だな。高原で育った生きのいい羊のミルクだ」
このミルクは、牛乳とはかなり味が異なる。
たとえるなら溶かしたバニラのような味である。
しっかりと冷えているため、まさにバニラのジュースを飲んでいるような感覚になる。
ベタつきが少なく、つるつるした食感も悪くない。
元貴族として、異世界の高級料理を食べ慣れてきた俺の舌にも、満足度が高いものだ。
「ミルクは確かに美味いが、他の料理も悪くないな」
とノルドゥーラは満足そうに食事を食べている。
俺はふと気になったことを口にした。
「いまさらだが、竜でも人間の食事を美味いと感じるのだな」
「うむ。人間と味覚が近いのかもしれぬな」
「わらわも美味いものは美味いと感じるニャ!」
ノルドゥーラもヴィシーも、ただの獣とは違って知性があるため、味覚も人間に近くなっているのかもしれない。
俺はノルドゥーラたちと歓談しながら、ディナーを楽しむ。