第5章140話:決着
<アンリ視点>
ディオネの剣を受ける。
反撃するタイミングはいくらでもあったが、あえて反撃をせずに受け続けた。
――――ディオネの剣は美しい。
流麗でありながら力強い。
剛剣と軟剣が両立できている。
かつてアレクシアと手合わせをしたときを、俺は思い出した。
だからしばらくディオネと打ち合って、その剣をできるだけ長く受けたいと思ったのだ、
だが……
(ディオネの剣が鈍り始めているな)
俺を攻め切れないことで、焦りを感じ始めたのだろう。
ディオネの心によぎった不安が、剣術のキレを鈍らせ始めている。
こうなると、彼女の剣を受け続ける意味が薄い。
もう少し、ディオネの剣と戯れていたかったが、そろそろ決着をつけるべきか。
「ハァアアッ!!」
ディオネが左の剣を振りかぶった。
斜めに振り下ろしてくる。
その斬撃を、俺は完璧なタイミングで見切る。
「ふっ!!」
こちらも斬撃を放つ。
まるでパリィのごとく、ジャストタイミングで剣が衝突し、ディオネの剣が吹っ飛んだ。
「!!?」
ディオネが目を見開いた。
俺はすかさずディオネに斬撃を放つ。
だが、ディオネは素早くバックステップをして、俺の斬撃から逃れる。
「避けたか」
と俺はつぶやいた。
ディオネは冷や汗を浮かべながらつぶやいた。
「強い……こんなにも強いヤツがいるとは。やはり総合闘技大会は甘くないな」
心を落ち着かせるためか、ディオネは「ふう……」と深呼吸をした。
左手に持っていた剣は吹っ飛んで、遠くに転がっている。
ディオネに残る剣は一本だけだ。
その一本の剣を、ディオネは両手に握って構える。
「……」
かつてなく大きな気迫がディオネから発せられた。
増していく威圧感と鬼気。
必殺技を出すつもりだろう。
「大技を繰り出すつもりか。……いいだろう。来い。受けて立ってやる」
と俺は言って、ショートソードを構える。
次の瞬間。
ディオネが地を蹴って、突っ込んできた。
「ヅァアアアアアアッ!!」
ディオネが、ここまでで一番の斬撃を放ってくる。
まるで雷が駆け抜けるような、速く、すさまじい斬撃だった。
しかし。
サイコキネシスによって強化された動体視力は、ディオネの斬撃を完璧に捕捉している。
(ここだ)
と俺は心の中でつぶやくと。
ディオネの斬撃に、ショートソードを衝突させる。
「!!」
果たして勝利したのはショートソードである。
ディオネの剣はあらぬほうに吹っ飛んでいき、やがて地面に突き刺さった。
剣を打ち合った衝撃で、ディオネの右手首がイカれていた。
右腕を痛そうにディオネが押さえる。
「決着だな」
と俺は言った。
ディオネは目を伏せ……。
「ああ……私の負けだ。完敗だよ」
と静かに答えた。
ディオネの降参宣言。
それを受けた女司会者が【拡声の魔石】を使って叫んだ。
『決着! 決着です! 準決勝第1試合を制したのは、アンリ選手!!!』
次の瞬間。
会場がワッと沸いた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「アンリ、強えな!」
「マジかよ。あのデケーほうが負けたのか」
「アンリは魔力量が低いのに、よく勝ったな」
「パリィみたいなジャストガード、なかなか痺れたぜ!」
「すげえ!」
「偉そうな演説をしただけあるな」
「やるじゃん、アンリ」
「ずっと防戦一方で、苦戦してたのにな」
「バカか。苦戦なんてしてない。ずっと余裕そうだったぞ」
観客たちが盛り上がる。
拍手や歓声があちこちで巻き起こる。