第5章139話:別視点
「もしアンリに何か隠れた力があるなら、見極めなければいけない。なぜなら俺たちは、新しい国王の誕生を防がなければならないからだ」
――――総合闘技大会は次期国王を決める戦いである。
この大会の最後に現在の国王が倒されたら、倒した者が次の王になる。
国家の一大行事であり、新しい国王が誕生したら盛り上がる。お祭り騒ぎになる。
だが……誰しもが新国王の誕生を望んでいるわけではない。
むしろ現在の政権で甘い汁をすすっている者からすれば、国王は変わらないでいてくれたほうが都合がいい。
だからそういう人間は、なんとしてでも新国王の誕生を防ごうとする。
その一番簡単な方法は、国王決定戦が始まる前に、選手を抹殺してしまうことだ。
国王になれる見込みのある選手を、未然に殺してしまうことで、国王決定戦を現国王の不戦勝で終わらせる。
そうすれば王権は交代せずに済む。
王のそばで甘い汁をすすっている連中が、今後も甘い汁をすすっていられるのだ。
「俺たちの雇い主は、国王の交代を望んでいない。だから――――」
「ええ。うっかり次の国王になってしまいそうな選手は、要チェックする。そして後日――――暗殺する」
今のうちに選手たちの戦いぶりを観察し、分析しておく。
暗殺のときに有利に立ち回るために。
「ただ、ディオネとアンリじゃ、たとえ国王決定戦まで進んだとしても、今の国王に勝てるとは思えないけどね」
「まあ……そうだな」
現国王は強い。
さすがに総合闘技大会のかつての覇者だけあって、戦闘の実力だけは確かだ。
それにずる賢くもある。
脳筋なパワースタイルであるように見えて、実は曲者らしい狡猾さも兼ね備えているのだ。
負けることなどあるとは思えなかった。
<ディオネ視点>
「ハァッ!!」
ディオネはアンリに斬りかかる。
圧倒的なパワーのうえに、卓抜の技術も乗せた二刀流。
矢継ぎ早の斬撃。
今日のディオネは調子が良かった。
絶好調といってもいい。
この日のためにコンディションを整えてきたからだ。
しかし。
(なぜだ……)
とディオネは困惑する。
(なぜ、一撃も浴びせられない? 攻撃が当たらない?)
さきほどから五十を越える斬撃を放っている。
しかし、その全てがアンリに回避されるか防御されている。
つまり有効打が一度も入っていないのだ。
(純粋な筋力も魔力量も、こちらのほうが上なはず……なのに、なぜ?)
なぜアンリを圧倒できないのか。
アンリを押し切れないのか。
いや、それどころか。
嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
自分がアンリに勝利できるイメージが沸かない。
絶対的に高い壁がそびえたっているように思えるのだ。
「くっ……!」
心の中によぎる不安を、かき消すようにディオネは叫ぶ。
「ハァアアアアッ!!!」
渾身の一撃を放つ。
斬る。
斬る。
斬る。
ついに攻撃回数は百を越えた。
しかしアンリには受けられ、いなされ、回避され続ける。
決して有効打にはならない。
(なぜだ……)
わからない。
アンリの強さの正体がわからない。
しかしディオネは少しずつ、自分の勝ち目が薄いことを感じ始めていた。