第5章138話:二刀流と別視点
ディオネの俺の手前まで接近してくる。
そして。
斬撃を放ってきた。
右の剣による袈裟斬りだ。
「……ッ」
リーチの長い斬撃である。
さらにディオネは腕も長いので、思ったより伸びてくる。
後ろに回避すると、そのリーチに捕まってしまうと思った。
なので俺は、あくまで袈裟斬りをかいくぐるように避ける。
すると。
「ふっ!!」
ディオネが回転斬りを放ってくる。
旋回した剣が、俺の目の前に迫ってくる。
「おっと」
俺はしゃがんで回避する。
さらにディオネが斬撃を放つ。
通常斬りをしながら、要所要所で回転斬りを織り交ぜた剣技。
まるで踊るような剣技だ。
それでいて豪快。パワーも非常に強い。
轟風をまとうような剛剣が自由自在に荒れ狂う。
(なるほど、これは強いな)
ディオネは二刀流を完全に使いこなしている。
俺が反撃しようとしても、ディオネはリーチの長さが生かせる間合いを保ってくる。
ゆえに俺は近づけず、防戦一方となる。
(パワーだけでなく、技量も磨いてきたと言うだけはある)
俺も貴族として、英才教育の中で剣術を学んできた。
だからディオネの剣の技量が極めて高い領域にあることがわかる。
<別視点>
円形闘技場の特等席。
国の重鎮や大臣たちが試合を観戦する座席。
その端のほうに立つ、二人の男女がいた。
どちらもフードをかぶっており、まるで暗殺者のような出で立ちである。
明らかに表の人間ではない。
フードの男は言った。
「どちらが勝つと思う?」
彼の名はヴェイスだ。
赤髪。
黄色い瞳。
身長173センチ。
しかし、顔の大部分がフードに隠れているため、髪も目もほとんど見えない。
フードの女が答えた。
「おそらく二刀流のほうね」
彼女の名はレナ。
黒髪。
黄色い瞳。
身長160センチ。
「つまり、ディオネか」
とヴェイスは言った。
アンリではなくディオネの勝利を、レナが予想する。
ヴェイスは尋ねる。
「根拠は?」
「単純に強いから」
リーチ。
筋力。
魔力量。
そして技術。
あらゆる面でディオネは仕上がっている。
「まあ、俺も同意見だが……しかし」
「何か気になることでも?」
「ああ。あの選手……アンリといったか。明らかに魔力量が少ないが、ディオネの攻撃をよく受けていると思ってな」
アンリの魔力量は極めて低い。
ディオネと比べると雲泥の差だ。
普通に考えれば、ディオネが圧勝してもおかしくない格差である。
だがアンリは、よく持ちこたえている。
「まあそれは確かに。でも開幕早々《かいまくそうそう》、防戦一方じゃない?」
「防戦一方……か。俺には、アンリに大きな余裕があるように見えるが」
「そう? 私はディオネが順当に勝つと思うけど……」
誰がどう見たってディオネのほうが強い。
アンリの勝利など考えられないと、レナは口にする。