第5章136話:あいさつ
『まずは準決勝・第1試合。アンリ選手とディオネ選手の対決となります』
「「「「いぇえええええええええああああああああああああああああ!!!!」」」」
歓声が巻き起こる。
ディオネ……
それが俺の準決勝の相手らしい。
名前からすると女かもしれない。
『それでは選手の方々、入場してください!』
司会者のアナウンスのあと。
俺の眼前にあった鉄格子の幕が上がった。
いよいよ入場だ。
俺は歩き出す。
対岸の選手入場口からは、俺の対戦相手となる選手――――ディオネが歩いてきていた。
髪は赤色のロングヘア。
瞳の色も赤色。
なんといっても目を見張るのは、その巨体。
身長230センチはあるだろう。
高さだけではない。
横幅もある。
筋肉が完全にゴリラなのだ。
たとえば上腕の筋肉も、俺の5倍は太いだろう。
さらにスポブラ・スパッツのような衣装を着ており、非常にラフな格好なので、鍛え上げられた肉体の大部分が露出している。
二刀流なのか、二本の長大な剣を持っていた。
(パワータイプか……)
と俺は推定する。
俺とディオネは20メートルの距離をあけて、立ち止まった。
司会の女が横に立つ。
女司会者は言った。
『それでは選手入場が完了いたしましたので、試合を開始したいところですが、その前に――――――まずは両選手にあいさつをしていただきましょう!』
そう女司会者は前置きして、俺に近づいてきた。
『まずはアンリ選手、お願いします!』
声を拡大するアイテム【拡声の魔石】を差し出してくる。
俺は魔石を受け取った。
あいさつか……
考えていなかったな。
まあアドリブでいいだろう。
俺は【拡声の魔石】に魔力を込めつつ、あいさつを開始する。
「はじめまして諸君。俺が次期国王となる戦士――――アンリだ」
拡大された声が闘技場に響き渡る。
「現在のベルナダ武人国国王は、国とは何たるかを全く理解していない。何より弱い。ゆえに俺が王権を打倒する。そしてこの国を、俺の色で染める」
他国でこんなことを言ったら、国家反逆罪で死刑にもなりえるような演説だ。
しかし観客たちは、堂々たる国王打倒の宣言に盛り上がる。
「お前たち観客は、次の王となる俺の戦いぶりを、その目に焼きつけよ。そして、しかと認識するがいい―――――俺こそが最強の戦士であることをな」
「「「「うおおおおおおおおおぉおおおおおおっ!!!」」」
いっそ強気すぎる宣言に、観客は大歓声である。
観客たちは口々に言う。
「いいぞ!」
「俺はお前を応援するぜ!」
「素敵なあいさつじゃない?」
「国王なんてぶっ潰せ!!」
「やっちまいな!!」
「期待してるぜ!!」
おそらくベルナダ武人国は、強気なあいさつのほうが好きだ。
歓声と拍手喝采で、盛り上がっている。