第5章135話:闘技場
そのときヴィシーが提案してきた。
「いっそ国王になったら、地上の全てを叩きのめして、支配するのはどうかニャ? お前がその気なら、わらわも協力するニャ」
「興味がない」
と俺は答えた。
「大陸の平定や世界征服は、響きだけ聞けば心躍るものだが、実際に全てを制圧できたとしても管理するのは大変だ。寝食も惜しんで働かなければならなくなるだろう」
さらに俺は告げる。
「俺はそんな人生は真っ平御免だ。悠々自適に旅でもしているほうが、性に合っている」
「そういえば、国王になっても、実務は部下に丸投げするつもりじゃと言っておったな」
「ああ。とはいえ王になったら、ある程度上手く回るように、国の制度を整えておくつもりだ。その計画は立ててある」
もちろん計画の詳細部分は未定だ。
国が管理している帳簿などを確認しないと、細部を詰められないからである。
王になって、政治の実権を握ったら、細かい部分を固めていきたいと思っている。
(なんにせよ、まずは王になることだな)
と俺は思い、明日以降の戦いに備えるのだった。
翌日。
朝。
晴れ。
8時の集合に合わせて、俺は闘技場にやってきていた。
王城のそばに設立された円形闘技場。
既に観客は満員である。
会場は活気と熱気に満ちあふれている。
「……」
俺はロビーで受付を済ませてから、選手入場口で待機していた。
ちなみに武器は、大会が用意したショートソードを使うことにした。
右手にそのショートソードを握る。
目の前には鉄格子があり、その鉄格子の向こうには闘技場のグラウンドがある。
……緊張はない。
ただ静かに開幕の時間を待つ。
ちなみにノルドゥーラは宿屋で留守番だ。
本当は観客席で観戦したかったらしいが……
チケットがとっくに売り切れており、観客席を取れなかったらしい。
ただしヴィシーに関しては、観戦しにくるようだ。
ヴィシーは野良猫と見た目が変わらないので、チケットは不要であり、そのまま観客席に忍び込んで観戦することができる。
『あー、あー、拡声テスト、拡声テストをしております』
そのとき、女の声がした。
どうやら闘技場の司会者の声である。
『拡声の魔石』を使っており、よく声が響いている。
そろそろ始まるようだ。
俺は司会者の声に注意を向ける。
司会者はアナウンスをおこなった。
『それでは、これより総合闘技大会の本戦を開催いたします!』
「「「「うぉおおおおおおおおおあああああああああああああ!!!!」」」」
観客たちの歓声が爆発する。
あまりの大音声であり、闘技場全体が震撼しているほどだ。
凄まじい熱気と盛り上がりである。
まあ、この大会の果てに次期国王が決まるわけだからな。
盛り上がるのも当然というものだろう。