第5章132話:魔法と鞭
「まずは名乗っておこう。俺はカイトーン」
魔法剣士の男――――カイトーン。
緑色の髪。
青い瞳をしている。
身長は174センチぐらいだ。
褐色である。
「―――――確かに俺たちは、あんたより弱いかもしれない。だが有象無象とまで言われるほど、甘くはないぞ!!」
カイトーンが怒りを含んだ声で言った。
彼は剣を持っている。
青色の魔力が帯びた剣だ。
その剣の切っ先をこちらへと向けてくる。
すると剣の先端に魔法陣があらわれた。
その魔法陣から、魔力のモヤがあふれたかと思うと、モヤが竜の頭のような形に変化する。
竜頭の形をした魔力のオーラが、直後、俺に向かって飛来してくる。
(なるほど……魔力で作ったドラゴンファングか)
ドラゴンファングとは、竜のかみつき攻撃のことだ。
通常のドラゴンファングは物理属性を持った攻撃である。
ところが眼前のドラゴンファングは、魔力のモヤによって作られている。
ゆえに属性は物理ではなく、別の属性を帯びていると思われる。
(問題はどの魔法属性か……火属性か、風属性か)
俺は一瞬、考え込んだが……
わからないので諦めた。
何の属性だろうが、サイコキネシスに粉砕できないものはないからだ。
ゆえに。
「ふっ!!」
迫ってきたドラゴンファングを、俺は念力格闘術による拳でぶん殴る。
ドラゴンファングと、俺の拳が激突する。
次の瞬間。
俺の拳に打ち砕かれて、ドラゴンファングが粉砕した。
ドラゴンファングを構成する魔力が散り散りに弾け飛んで、霧散する。
俺はクククと笑いながら告げた。
「―――――やはりお前は、有象無象だ」
「バカな……」
とカイトーンは、ショックを受けている。
そのとき。
横から気配がした。
「……!」
ムチの女が戦意をにじませていた。
女が、俺に向かってムチを振るう。
うねるような軌道でムチが迫ってきて、俺はすぐさまバックステップで退避する。
俺がさっきまでいたところにムチが当たり、地面を砕き散らす。
なかなか高威力のムチ攻撃である。
「鞭使いとは新鮮だ。初めて会うかもしれない」
ムチを戦闘に用いる者は多くない。
リーチは長いものの、剣や槍に比べて扱いが難しいからだ。
「私は鞭の達人サラベル」
ムチの女サラベル。
赤髪のほつれたロングヘア。
赤い瞳。
身長170センチある女だ。
サラベルは言った。
「うねるような軌道で、相手の防御をかいくぐる。そして私の鞭術に打たれた者は、皮膚が張り裂けるだけでは済まないわ。骨が砕かれ、痛みのショックで気絶する」
と女が説明した。
俺は肩をすくめて、告げる。
「説明を聞いただけならゾッとするな。つまらん芸でなければいいのだが」
「安心しなさい。――――受けてみればわかるから!」
サラベルがムチを振るう。
空中で荒れ狂うムチ。
まるで尾の長い蛇が空中で蛇行するような、凄まじい軌道である。
なるほど達人というだけあって、よく磨き上げられた攻撃だ。
見切るのが難しい軌道。しかも高威力。
だが―――――
俺はそんなムチの軌道を完璧に見切り、素手で掴む。
バシッ、と俺の手の中に鞭が捉えられた。
「そんなっ!? ムチを掴むなんて!?」
サラベルは信じられないといった顔をしている。
俺はムチを手離した。
直後、俺は地面を滑るように移動して、サラベルの眼前まで接近。
そのみぞおちに拳を叩き込む。
「―――――――くはッ!!?」
サラベルがくの字に身体を曲げる。
ちょうど蹴りやすい位置に顔が来たので、俺は彼女の頭を押さえたうえで、そのアゴに膝蹴りを食らわせた。
サラベルが白目をむいて昏倒する。