第5章128話:開始
「はーい! 人の話をさえぎるのはやめてくださいね~! 失格にしますよ~?」
と女役人が半ギレになりながら言った。
女役人はルール説明を再開しようとしていたが、そんな彼女に向かってあちこちから怒号が飛ぶ。
「つーか、ルールの説明なんていらないわよ!」
「そうだそうだ! みんなルールなんて知ってるんだからさ!」
「わざわざ説明するまでもねえって!」
「とっとと始めようぜ!」
選手たちが騒ぎ始める。
まあ……ルール説明は、俺も要らないと思っていた。
ルールブックで散々読んだからな。
さっさと1回戦を開始してもらいたいというのは、俺も同感だ。
「わかりました~! じゃあルール説明はナシにして、1回戦を開始させていただきますね~!」
選手たちの要求に押され、女役人がヤケクソ気味に言った。
「準備はいいですか~!」
と女役人が声をかける。
選手たちは静まり返る。
それぞれ武器を構えた。
俺も戦意を高める。
女役人がざっと周囲を見渡してから、告げた。
「では……1回戦、はじめ~ッ!!!」
女役人による開始の宣言。
まさしく、その直後のことだった。
―――――ズガアアァァンッ!!
と耳をつんざく轟音があちこちで発生した。
1回戦の開幕と同時。
魔法を使える選手たちが、一斉に範囲魔法を放ったのである。
爆炎が渦を巻く。
竜巻のような風が炸裂する。
地面から天に向かって岩石の突起が突き出す。
水の魔法弾が空から降りそそぐ。
轟音と爆風と砂塵が、うねるように吹き荒れた。
「なにぃっ!?」
「うあああああああっ!!?」
「ぐはっ!!?」
「い、いったい何が!?」
「魔導師どもが暴れだしたんだ!」
魔法に吹っ飛ばされた者たちは悲鳴をあげ―――――
運良く範囲魔法の圏外にいた選手たちも、巻き込まれまいと必死で逃げ惑いはじめた。
「あはははははは! これだけ敵がいると、範囲攻撃が捗るわねえ!!」
「死ね死ね死ね死ね!! キャハアアアアアアアッ!!!」
「近接主体の脳筋どもは、ここで脱落しやがれ!!!」
逃げ惑う選手たちに対して、魔導師たちはやりたい放題だ。
『自分以外は全て敵』という状況。
魔法を主力とする選手たちは、範囲魔法の行使をまったく躊躇しない。
近くにいる者を全て吹き飛ばすつもりで、範囲魔法による絨毯爆撃をおこなっている。
しかし。
「魔導師どもめ、ムチャクチャしやがって……ぶっ殺してやる!!」
と反撃に出る戦士たちもいた。
範囲魔法による攻撃をかいくぐって、魔導師たちに近づき、殴りかかり斬りかかる。
ちなみにだが戦士たちが持つ武器は、うっかり他選手を殺したりできないように刃が潰されているので、『斬りかかる』といっても実際は打撃と同じである。
(くく……開始早々、地獄絵図だな)
と俺は心の中で笑った。
俺はサイコキネシスによる防護膜を張っているので、炎だろうが竜巻だろうが、全て無効化できる。
あちこちで範囲魔法が猛威を振るっているが、俺は、状況が落ち着くまでのんびりと静観することにした。