第4章120話:宝部屋
「ところで、猫魔神ヴィシー」
「ん?」
「お前はノルドゥーラのように人間にへんげするのは無理だな?」
「無理ニャ! 人にへんげするなんて、相当すごい魔法ニャ!」
「――――だが小さくは成れるだろう?」
俺はそう指摘する。
猫魔神ヴィシーは全長30メートルもある巨大な猫だ。
行動をともにするにしては巨大すぎる。
ゲームではヴィシーは仲間になった後、【形態魔法】によって小さな猫へと姿を変えられる。
ならば眼前のヴィシーも、それが可能なはずだ。
「よく知っているニャ。長らく使っていなかった魔法ではあるが、実演してみるニャ」
とヴィシーは告げてから、【形態魔法】を使った。
全身が光り、それから少しずつヴィシーの身体が小さくなっていく。
最終的には、そこらにいる猫と変わらない大きさへと縮まった。
「ニャー!」
とヴィシーが鳴いた。
その鳴き声は、普通の猫と変わらない。
「話せるか?」
「もちろん話せるニャ!」
とヴィシーが答える。
ノルドゥーラが感心したように告げる。
「すごい能力じゃな。こうしてみると、高ランクダンジョンのボスとは誰も思うまい」
「ああ、そうだな」
ヴィシーの見た目は可愛らしい猫そのものだ。
小さな猫の姿になると、ヴィシーの持つ圧倒的な魔力と威圧感も、ほとんど感じなくなる。
この猫を見て、最高ランクのダンジョンボスと思う人間はどこにもいないだろう。
「ヴィシー、これからお前を連れて地上に戻る」
「ニャ!」
「地上では、必要なとき以外は、そのサイズで過ごせ。お前が元の姿になると、地上では騒ぎになるだろうからな」
「わかったニャ。幸い、小型の状態を維持するのに魔力は使わないニャ。だからずっとこのままでも平気ニャ」
とヴィシーは了解した。
「では、外に出るぞ―――――いや。忘れるところだった」
と俺は思い出したようにつぶやいた。
ボスを倒した先には宝部屋がある。
入手してある【スレネの鍵】も使っておきたい。
「ボス戦後の報酬をいただくとしよう」
俺たちは、ボス部屋の奥へと進んだ。
最奥の壁に扉があり、開けるとそこに、宝箱が存在した。
中に入っているものは……
「アクセサリーか」
と、ノルドゥーラがつぶやいた。
宝箱に入っていたのは指輪のアクセサリー。
名前は【ザラ・アルネイト】。
黄色い宝石が埋め込まれた美しい指輪である。
装備すると、全ステータスが1.5倍に強化される。
最強ダンジョンのクリア後に得られる報酬ゆえに、なかなか破格の性能である。
「これはステータス強化アイテムだ。お前がつけろ」
と俺はノルドゥーラに渡した。
「よいのか?」
「ああ」
俺、ノルドゥーラ、ヴィシーのうち、最もステータスを強化しなければいけないのはノルドゥーラだ。
このアクセサリーをつければ、ノルドゥーラもヴィシーに近い実力を発揮することができるだろう。