第4章116話:ボス部屋2
「ノルドゥーラ。お前は安全な場所まで下がっていろ」
「あ、ああ……」
とノルドゥーラは答えてから、後退する。
猫魔神ヴィシーは戦意をにじませながら言った。
「この階層まで到達してきたぐらいだから、お前は人間の中ではそこそこ強いのだろうニャ。だが――――本当の絶望を知らないニャ」
「……」
「わらわを倒そうなどと、甘い幻想だとすぐにわかるニャ」
魔神と謳われただけあって、威圧感がすさまじい。
その霊圧だけで、並みの人間を失神させかねない威風をなびかせている。
だが俺はそんな圧力など、柳に風と受け流し、悠々《ゆうゆう》と告げた。
「御託はいい。さっさとかかってこい」
「ニャー!」
戦闘の火蓋が切られる。
猫魔神ヴィシーの足元に巨大な魔法陣が発生した。
次の瞬間。
その魔法陣が盛大に光り輝いたかと思うと、神々《こうごう》しい光の柱が天に向かってそそり立った。
俺は素早くバックステップをおこなって、光の柱の範囲外へと退避する。
(【光柱爆発】か。まともに食らったら即死だな)
魔法陣から光柱を発生させ、その柱の範囲内にいた者を消し飛ばす魔法。
光魔法の最上級であり、とんでもない火力がある。
「よく避けたニャ! だが次はどうかニャ?」
光柱に包まれた猫魔神ヴィシーが、新たな魔法を発生させる。
空中に50近い魔法陣が発生し、そこから雷が発射された。
いかずちとは本来、上から下へと落ちてくるものだが、猫魔神ヴィシーのいかずちは、斜めにも発射されている。
50ものいかずちが同時に飛んでくるさまは、まるで絨毯爆撃である。
しかも物理的衝撃もあり、地面に着弾したいかずちは、大地を砕き散らして、地の底に流れていた青いマグマを噴射させた。
瓦礫とともに空へと打ち上がったマグマは、その後、雨のごとく地上へと降り注ぐ。
いかずちと青マグマが同時に降り注いでくる、地獄のような光景だ。
ただし、俺は余裕で避けている。
一方。
「ぬああっ!!」
と悲鳴を上げたのはノルドゥーラだった。
猫魔神ヴィシーの激しすぎる初動の攻撃に、ノルドゥーラは巻き込まれそうになり、逃げ惑っていた。
俺は命じる。
「もっと下がれ。入り口あたりまで退避しろ」
「わ、わかった!」
とノルドゥーラが応じて、戦闘に巻き込まれない位置まで退いていく。
猫魔神ヴィシーは言った。
「んーむ、わらわの初撃を避けきったかニャ。口だけデカい人間ではないようだニャ」
「当然だ。この程度の攻撃ならば、眠っていても避けられる」
俺は余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》と答えた。