第4章115話:ボス部屋
ボス部屋。
広い空間だ。
天井も横幅も数キロほどのスペースがある。
いま自分が立っている位置からでは、端のほうがどうなっているのか確認できないほどだ。
床は大地であり、水路のような溝が張り巡らされており、青いマグマが流れていた。
そんな部屋の中央―――――
一匹の猫がいた。
ヤツがダンジョンボスである。
極めて巨大な三毛猫だ。
全長30メートルはある。
身体は黒と茶色と白の模様の毛並みに包まれている。
俺たちはボスに近づく。
「ニャニャ? 驚いたニャ。人間がやってくるとは、初めてのことだニャ」
「猫魔神ヴィシーだな?」
と俺は確認するように尋ねた。
「いかにも。お前、わらわのことを知っているようだニャ」
猫魔神ヴィシー。
それがこいつの名前である。
猫魔神……という名前がついているが、神ではない。
あくまで魔神というのは俗称だ。
かつてヴィシーが地上で暴れまわっていた時代があったのだが、そのとき天災のような存在として恐れられ、魔神という名がつけられたのである。
「お前を狩りに来た」
と俺は告げた。
「だが、殺しに来たわけではない。仲間にしに来たのだ」
「ニャニャ!?」
と猫魔神は大きな目を、さらに見開いた。
俺は宣言した。
「俺がお前に勝った暁には、俺の傘下に入ってもらおう」
「ニャニャー! これは傑作だニャ!! わらわを倒して、仲間にしたいだと!? 魔神と謳われたわらわに、お前ごときが勝てると思ってるのかニャ!?」
「無論だ」
と即答する。
猫魔神は手をバンバンと叩いて笑った。
「ニャニャニャニャニャー!!! 気が狂ったバカがいるニャー!!」
ちなみに手をバンバンと打ちつける衝撃で地面が陥没し、砕けている。
ただ笑い転げるだけでも周囲を破壊してしまう強大なモンスター……それが猫魔神ヴィシーだ。
「それで、どうする? 負けるのが怖いか? ならば条件を引っ込めてやってもいいが」
俺が挑発的な物言いをすると、猫魔神はニタニタと笑いながら答えた。
「別に引っ込めなくてもいいニャ。どうせわらわが圧勝することは決まっているのだからニャ」
そして、改めて猫魔神は告げた。
「わかったニャ。お前と戦って、負けたら仲間になってやる……その条件でいいニャ」
「そうか。約束、違えるなよ」
と俺は言いながら、満足げに微笑んだ。




