第4章95話:へんげとアイテム
俺は告げた。
「刃竜であるお前なら、生身でもたいていの敵は殺せるだろうが……精霊や魔王のような強者が相手だと、いささか力不足な面もあろう」
「まあ、そうじゃな」
「だが、その武器ならば、たとえ精霊に襲われても、対抗することができよう」
「ふむ。しかし……気を抜いたら、槍の霊圧に我自身が潰されそうになるな。つくづく恐ろしき槍じゃ」
ノルドゥーラがしみじみとつぶやく。
彼女は、海に向かって、おもむろに槍を振った。
ノルドゥーラの常軌を逸した腕力と、霊槍そのものが有する圧力。
それらが合わさった一振りは、轟風を巻き起こし、砂浜や海を吹き飛ばす。
海水と砂が空に舞い上がって降り注いできたので、俺はサイコキネシスの結界を張って、それらを弾いた。
「良い威力だな」
と俺は感心した。
さらに尋ねる。
「槍術は使えないか?」
「使えるわけがなかろう」
「そうか。まあ使えなくても、適当に振り回していれば、たいていの相手はねじ伏せられるだろう」
と俺は言った。
槍自体も強力だし、ノルドゥーラも刃竜だから強い。
まさしく霊槍を手に入れたノルドゥーラは、鬼に金棒だ。
ほとんど無敵の強さを実現できるだろう。
「その槍はくれてやる」
「よいのか?」
「ああ」
「ありがたい。しかし、どこに収納すればよいじゃろうか?」
「アイテムバッグをくれてやる」
俺はアイテムボックスから、余っていたアイテムバッグを取り出した。
ノルドゥーラにプレゼントする。
「アイテムバッグをもらっても、竜の姿に戻ったときはどうする?」
「竜の姿になったとき、所持していたものは消えてしまうが、また人の姿になったとき、所持品が手元に戻る仕様になっているはずだ」
「何……? そんな手品のようなことがあるか?」
ゲームではそうだった。
しかし異世界でも、そうなっているかはわからない。
「実際にやってみろ」
「ふむ、わかった」
まずノルドゥーラは霊槍をアイテムバッグに収納した。
その状態でアイテムバッグを腰に巻きつける。
そして。
へんげする。
竜の姿へと戻る。
「よし、竜の姿に戻ったな。アイテムバッグは消えた」
「ああ、そうじゃな」
ノルドゥーラが持っていたアイテムバッグはどこにもなくなっている。
「もう一度、人の姿に戻ってみろ」
「わかった」
ノルドゥーラが人の姿へと戻った。
すると、人型のノルドゥーラの腰に、アイテムバッグが巻きつけられている。
そこから霊槍ネリスヴォルンを取り出すノルドゥーラ。
「言った通りになったな」
と俺は満足げに微笑んだ。
しかしノルドゥーラは神妙な顔つきをしていた。
「面妖な……これはいったいどういう原理なのじゃ?」
「知らん。そういうものだと思え」
もともとはゲームの仕様だからな。
深く考えても仕方がないだろう。