第4章93話:竜玉
眼下で切断されたカニ。
俺は告げた。
「さあ、竜玉を回収しよう。少し近づいてくれ」
「ああ」
とノルドゥーラは応じて、カニに近づいた。
ぶちまけられたカニの体液が、周囲の地面や、草原や、樹木を紫色に染めている。
なかなか気分が悪くなりそうな光景である。
俺はさっさと目当てのものを回収することにした。
竜玉はかなりの大きさだから、視界に入ればすぐにわかるはずだが……
「お……あった」
近くの草原に転がる竜玉。
灼熱の炎を宿したかのような、1メートルほどの大きさもある宝玉である。
周囲はカニの体液に染まっているが、竜玉だけは体液がかかっておらず、本来の色を放っていた。
まるで結界にでも守られているかのようだ。
俺はサイコキネシスを使って竜玉を浮かせ、手元に引き寄せる。
「それが竜玉か?」
とノルドゥーラが尋ねてきた。
俺は肯定する。
「そうだ。……手頃な大地に着地しろ」
「わかった」
ノルドゥーラは了解し、翼をはためかせて飛翔した。
少し離れた海岸の砂浜へと着陸する。
無人の砂浜だ。
さざめくような潮騒。
海風が髪をなでていく。
……久しぶりに海を見た。
感傷的な気持ちが湧いてくる。
「……」
俺はサイコキネシスにより、竜玉をノルドゥーラの顔面の前へと持ち上げた。
「食え」
「……これを食うのか?」
「そうだ」
「我は鉱物を食す趣味はないのじゃが」
竜玉は、見た目としては巨大な鉱石、もしくは宝石だ。
食べ物には見えない。
ノルドゥーラが抵抗を示すのはわからなくはない。
「いいから食べろ。美味いかもしれないだろ?」
「……おぬしが我の立場だったら食べたいと思うのか?」
「思わんな。死んでもごめんだ」
「……まったく、良い性格をしておる」
ノルドゥーラはため息をついた。
やがてあきらめたようにつぶやく。
「わかった。食えばよいのじゃな」
そしてノルドゥーラが竜玉にかみついた。
竜玉はサイズが大きいので、ノルドゥーラは大きく口を開けて、口に含む。
巨大な牙を竜玉に立てて、力を込め、噛み砕いた。
バリバリと音を立てながら食べていく。
すると。
「む!?」
ノルドゥーラの身体が不思議な銀色の光を帯びた。
オーラのように、ノルドゥーラの全身に陽炎が立ちのぼる。
「お、おおおお!? なんじゃ!? まるで新しい回路が開かれたような!?」
とノルドゥーラが驚愕していた。
どうやら力が覚醒したようだ。