第4章91話:公国へ
ノルドゥーラが聞いてきた。
「で……アレを調べるのか?」
「いや、それは後回しにしよう」
「後回しか」
「今はやりたいことがある。そちらが優先だ」
寄り道をするつもりはない。
まずはフラウード公国で竜玉を集めることを優先する。
だが、俺は告げた。
「しかし、いずれここに戻ってきて、必ずあの岩を調べるぞ。ただ浮いているだけの無機物じゃないのは明らかだからな」
わざわざ結界まで張られているというぐらいなのだから、何か重要な物体であることは間違いない。
その正体を明らかにする楽しみは、後に取っておくことにしよう。
ノルドゥーラが降下する。
雲海を突き抜けて、雲の下へと戻ってくる。
フラウード公国に向かって、ノルドゥーラが空を翔け始めた。
飛ぶ。
飛ぶ。
飛ぶ。
ノルドゥーラの腕の上に座った俺は、空のうえから見晴らせる絶景を、存分に楽しんだ。
やがて。
フラウード公国に入国する。
山脈のうえの空路を通って、ノルドゥーラがフラウード公国内へ入っていく。
「高度はこのままを維持しろ」
と俺はノルドゥーラに命令した。
その理由について以下のように説明する。
「あまり高度を下げると、公国人を驚かせてしまうかもしれんからな」
高度を低くすると、公国の大地を歩く民衆に、ノルドゥーラの姿ががっつり見られてしまう。
公国人たちの頭上を、ノルドゥーラのような巨大な竜が飛行していたら、パニックが起こりかねない。
「わかっておる。……それで、ここからどちらへ向かって進めばよい?」
とノルドゥーラが尋ねてきた。
「北東方面に進め。そしたら海が見えてくるはずだ」
「海にいけばいいのじゃな? 了解した」
ノルドゥーラが北東の方角へと進路を変えて、飛んでいく。
しかし、いよいよ日が暮れてきた。
俺たちはいったん地上に降り立つことにした。
なるべく人里離れた場所を選ぶことにする。
降り立ったのは、いくつもの山が広大にひろがる場所――――連山。
その山の峰に着陸する。
「ふう……」
ノルドゥーラの背中から下りる。
周囲には、草の緑や、花々《はなばな》、むきだしの岩石、断崖などがあり……
それらが沈みゆく夕陽に染まって、美しく輝いていた。
「良い景色だ」
空の旅で、無数の絶景を堪能したが……
山峰の景色も格別である。
「フィオリト岩原以外の場所で休むのは久しぶりじゃな」
「そうか。新しい刺激を得るのは、脳にとって栄養になる。楽しむことにしよう」
俺は野宿の準備を始めて……
山峰での優雅な一夜を過ごすのだった。