第4章90話:岩
俺は尋ねる。
「空の上にも魔物がいるのか。考えたこともなかったな」
「ああ。いるぞ。それに魔物だけではない。よくわからんものも浮いておる」
「ん? 何が浮いているんだ?」
と俺は首をかしげた。
ノルドゥーラが答えた。
「実際に雲上まで飛翔してやろう。自分の目で見て確かめてみるがいい」
直後。
ノルドゥーラが翼を大きくはためかせる。
上へ向かってノルドゥーラが飛び始め、高度をどんどん上げていった。
まばらな雲の群れを突き抜ける。
やがて分厚い雲の塊が上空にあらわれた。
まるで空の天井ともいうべき雲の海に、ノルドゥーラが突っ込んだ。
霧雨のような冷たい水蒸気が、俺の頬にぶつかってくる。
そして。
10秒後。
ノルドゥーラが雲の海を突破した。
視界が晴れる。
そこは雲上の世界。
はるか彼方の果てまで真っ白な雲海が広がっている。
頭上にはもう雲はなく、どこまでも蒼穹が続いていた。
そんな空に、さきほどの魔鳥であるシフルバウムが飛んでいた。
しかし俺が注目したのは魔鳥ではない。
雲海のうえに滞空するもの―――――
超巨大な岩石である。
「岩……だな」
岩としかいいようがない。
もしかしたら別の何かかもしれないと思ったが……あれは岩だ。
全長にすると1000メートル以上はあるかもしれないほどの巨岩である。
遠近感が狂いそうになるサイズ。
そんな超絶巨大な岩石が、ちょうど見上げるような位置に浮遊していた。
「ノルドゥーラ。アレはなんだ?」
と俺は尋ねた。
「よくわからんものだと、我も言ったじゃろう。あの巨岩の正体は不明じゃ」
とノルドゥーラが滞空しながら答える。
俺は尋ねた。
「近づいて、調べてみたか?」
「いいや。近づけん」
「何?」
「あの岩の周囲に、巨大な結界が張ってあってのう。そこから先には進めん。結界を破壊してやろうかと思ったが、我には不可能じゃったな」
ノルドゥーラの強大な攻撃力を以ってしても、破壊不可能な結界。
何のために浮遊しているのか。
わからない。
ゲームのころにも、見たことも聞いたこともない物体だ。
しかし、それゆえに。
「くくくっ」
俺は笑いがこぼれた。
ノルドゥーラが怪訝そうに尋ねてくる。
「急に笑い出してどうした?」
「いやなに、この世界は実に愉快な事象に溢れていると思ってな!」
ああいう、よくわからない事物を発見すると、ワクワクするような感情で満ちあふれる。
こういう原始的な好奇心を刺激してくれるから、異世界は好きなのだ。