第4章89話:大空と魔鳥
翌日。
俺は刃竜ノルドゥーラの背中に飛び乗る。
ノルドゥーラが翼をばたつかせ、空へと舞い上がった。
ノルドゥーラが大空へと飛翔する。
風が、俺の髪や服をはためかせる。
気圧が低下し始めたので、俺は耳がキーンと鳴るのを心配した。
サイコキネシスで耳を保護しておく。
「ふむ」
翼をはためかせてノルドゥーラが前進し始める。
ノルドゥーラの背中に乗った俺。
思うことは一つだ。
(ノルドゥーラの背中しか見えんな)
ノルドゥーラは巨大である。
そのため背中に乗ると、俺の視界いっぱいが甲殻で埋め尽くされてしまう。
上空からの眺めを楽しもうと思っていたが、これでは何も見えない。
「おい、ノルドゥーラ」
「ん? なんじゃ?」
「空の景色を堪能したい。肩が腕を貸してくれ」
「ふむ……」
ノルドゥーラが右腕を水平に持ち上げた。
「ここに乗るとよい」
「ありがたい。ところで、その姿勢を維持するのは疲れないのか?」
「いや、問題ないぞ」
「そうか。では遠慮なく」
俺はノルドゥーラの右腕に乗った。
さらに肘のあたりまで移動してから、俺は腰を下ろした。
視線を下方へと向ける。
「良い眺めだ」
天空の雲に差しかかるような高度。
フィオリト岩原を遥かに見下ろし、彼方の山脈や大森林も一望できる。
雄大な大自然。
美しい。
絶景である。
それに、風がなかなか心地よい。
心が洗われるようだ。
「しかし、空の景色を楽しみたいなら、力を使えばよいのではないか? おぬしなら自力でも飛べるじゃろうに」
「確かに、俺もサイコキネシスを使えば飛行できる。しかし竜に乗って空を飛ぶ体験には、独特の感興があるのだ。いわばロマンだな」
「『ロマン』とは? 知らない言葉じゃな」
「遠い国の言葉だ」
と俺は答えておいた。
そのとき。
「キキェエエーーーッ!!」
と奇声をあげながら、近づいてくる影があった。
鳥である。
体長3メートルぐらいはある怪鳥だ。
全部で5体である。
俺たちよりもさらに上空からやってきたようだ。
「……ふッ!」
とノルドゥーラが呼気をする。
次の瞬間。
ノルドゥーラから刃のかまいたちが炸裂した。
そのかまいたちの斬風は、周囲に群がってきた怪鳥たちを両断して、即死させていく。
怪鳥たちの死体が、重力にしたがって落下していく。
「空の上には、あんな魔物がいるんだな」
俺はつぶやきながら、比較的綺麗に残った怪鳥の死体を1体、サイコキネシスで浮上させる。
近くに引き寄せた。
「焼き鳥にしたら美味そうだ。1匹だけストックしておくか」
と俺はアイテムボックスの中へと放り込んだ。
ノルドゥーラが言った。
「いまの鳥の名は、シフルバウム。空の上を飛びまわる魔鳥よ。なかなか強い魔物じゃが、我の敵ではないな」
たしかに刃竜に比べれば雑魚だろうな。