第1章1話:悪役貴族に転生する
俺は里谷康平。
34歳。
高卒フリーター。
両親は他界して天涯孤独。
恋人、友人、どちらもおらず。
そんな俺のささやかな幸せといえば、VRゲームである【グランドリドル・クロニクル】をプレイすること。
暇な時間を全てゲームにつぎ込む廃人ゲーマー。
ある日のことだった。
トラックに轢かれて、俺は死んだ。
即死である。
俺は転生することになった。
女神に以下のことを言われた。
・転生先の異世界は、グランドリドル・クロニクルをベースにした異世界です。
・転生者はあなたと、もう一人います(今後、転生者をさらに追加することはありません)。
・あなたはゲームのキャラクターであるアンリに転生します。
・セーブやロードはなく、死んだら蘇生できないので頑張ってね。
ちょっと待ってくれ。
アンリはまずい。
なぜなら、アンリは……
ゲームの世界では悪役だからだ
しかも破滅が確定しているキャラクター。
だから考え直してくれ!
そう女神に懇願した。
しかし。
「アンリとして頑張ってください」
無慈悲にそう告げられ……
俺は異世界へと転生した。
俺は……
街道を歩いていた。
そのとき、ふと前世の記憶を思い出した。
俺はかつて里谷康平だったということ。
そして。
現在は、アンリだということ。
「マジでアンリになっちまったのか」
俺はぽつりとつぶやく。
自分がアンリだということに、なんら疑いはない。
なぜなら、俺にはアンリとして生きた記憶があるからだ。
16歳のアンリが持つ、16年間の記憶。
そこに、里谷康平として生きた記憶が混ざり合う。
人格も、前世の俺とアンリが完全に融合したようだ。
記憶や人格が混ざり合って、混乱しそうになる思考。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせる。
深呼吸をする。
すー。
はー……。
「よし」
落ち着いてきた。
まずは、自分の状態を確認していこう。
俺はアンリ。
髪は銀髪。
瞳は黄色。
身長170cmぐらい。
年齢は16歳。
現在の服装は、旅人が着るような衣服である。
腰には剣を携えている。
(で……俺はどこを歩いているんだ?)
歩いているのは街道だが、どこの街道を歩いていたのか……?
記憶を手繰り寄せる。
すぐに思い出した。
ここは国境近くの街道。
そして。
(ああ、そうか。俺は追放されたのか)
自分が国外追放処分を受けていたことを思いだす。
いろいろあって裁判を起こされ、有罪となったアンリは、国外追放となっていた。
「ゲームでもアンリ追放ENDはあったからな……」
と、俺はぽつりとつぶやく。
グランドリドル・クロニクルでも、アンリは国外追放ENDで幕を閉じる。
つまり現在の俺は……
グランドリドル・クロニクルを終えて、追放されたあとの状態というわけだ。