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戦士の受難  作者: とんぼ。
第1章 立志編
6/83

「猫耳女と主人」

「おい、オメェら何してんだ!早く来い!」

 岩場を先に進むケイヤが怒鳴る。だが、こちらはそれどころではない。


 「見ろクロ!この石ドラゴンの形だぞ!」

 「本当だ!こっちは天使みたいだよ!」 

 何せ、素晴らしい形の石を見つけてしまったのだ。クロに知らせると嬉しそうに他の石も見せてきた。


 そんなセイジとクロを冷めた目で見るケイヤとハクエの姿が前方にはあった。

 「あの人達、どうしますか?」

 「置いてく!つうか、あれ以上無駄なもんを持ち帰らすな!」

 

 ということでズイズイ前に進む2人。それに気付いたセイジ達は急いで追いつかなければならない。

 「く、クロ。この石中々重いぞ。」

 「頑張ってセイジ!何としてもこの石、飾りたいだろう!?」


 カッコ良さげな石。何としても持ち帰って飾りたい。しかし前方のケイヤ達に追いつくため、走るセイジにとって石は重荷でしかなかった。

 だとしても、この石は持ち帰りたい。


 「お、俺はもう、だめかもしれん。」

 思い虚しく体力尽きかけるセイジ。整えた茶色の髪はへこたれ始めている。


 「せ、セイジ!頑張って!かくなる上は、僕が君を背負う!」

 「クロ…!」

 セイジよりも数倍体力のあるクロは、彼を石と一緒に背負って走る。


 流石と言わざるを得ない速さによって先行していたケイヤの赤い後ろ髪は直ぐ目の前に迫った。


 「!追いついたんですね。」

 「ったく、おせぇん…待て!その石ころは持ってくんじゃねぇ!」


 セイジを下ろしたクロは軽く息をつきながら、ケイヤの言葉を聞き返す。


 「持っていくなって、どうして?」

 「どうしてって、オメェら今まで拾ってきた物はどうしてた?」

 「飾っていたな。」

 「うん。」


 川辺にある石ころ、ピカピカなどんぐり、形の良い松ぼっくり。それら全て持ち帰り、大切に飾っている。


 「飾るっ、て掃除は?」

 「掃除?」

 「………この間、どんぐりの中から虫が湧いていました。」

 「………」


 ハクエはじっとこちらを見る。恐らく、彼女が虫の後片付けをしたのだろう。

 クロ達は何も言えなかった。


 「そんで?その石ころは持ち帰んのか?」

 「「……持ち帰りません」」

 「よし。それでは帰りましょう。」


 叱られた子供が如くクロとセイジは大人しく2人に従うことに。まぁ仕方がないことだ。


 「じゃあね。いつか迎えに行くからね。」

 「そうだ、名前を書いておこう。取られないようにな。」

 「いいね!それ。」


 こうして泣く泣く石との別れを済ませたセイジ達は帰路につくこととなった。

 彼ら一行は依頼から帰る途中である。その中で周囲一帯、岩肌が露出した土地に来ていたのだ。


 名前を書いた石との悲しき別れ。その数十分後に、人と思わしき叫び声が聞こえた。


 「いやぁーーーー!なんなのよぉーーー!」

 「!?叫び声だ!急ごう!」

 「あぁ。」


 こういう時、クロは率先してトラブルだろうと何だろうと飛び込もうとする。

 お人好しも随分極まっているものだ。


 そうして辿り着いた先には猫のような耳と尻尾を付けた女がモンスターから逃げていた。

 「む、あれはゴーレムか?」

 「そうですよ。C級石ゴーレムなので攻撃の際は関節を狙ったり、魔法で武器の強化をしましょう。」

 「そんなこと言ってないで助けてぇぇぇぇ!」


 悲惨な猫耳女の叫び。ややのんびりしていたハクエとセイジは他の2人と同様に石ゴーレムとの戦闘に行く。


 「ほらもやし!やれ!」

 「了解!」

 もやし、と呼ばれたセイジは持っている斧のダイヤルを回す。

 魔石は黄色。つまり周囲のエネルギーは丁度よい。


 「ヒート!」

 セイジが唱えると斧は強化される。とは言っても、本人には分からないのだが。

 強化されたであろう斧を、石ゴーレム目掛けて振るう。


 狙い目は関節であるため横に振るう。やや慣れない動作だが仲間が弱らせてくれたお陰で、攻撃は無事に当たった。


 攻撃を食らい、石ゴーレムはゴロゴロと崩れていく。


 「大丈夫ですか?お怪我は?」

 先程逃げ回っていた猫耳女へハクエが声をかける。すると彼女は様子を一変させて対応。


 「大丈夫だにゃん!ありがとうございますにゃん!」

 「にゃ、にゃん?」


 不可思議な語尾に固まるハクエ。

 戦闘を終えたセイジ達も彼女らに近づく。


 「何でけったいな語尾付けてんだ、オメェ?」

 「にゃんでって、みーはキャッツ王国のキャッツ族だからだにゃん!」

 「……先程は普通に叫んでいなかったか?」

 

 「にゃ、にゃにいってるか分かんないにゃー。」

 慌てて取り繕う猫耳女。というか、よく見れば猫耳や尻尾は後付けされたもののようだ。


 「そ、それより、一緒にご主人様を探してほしいんだにゃん!勿論、お礼はするにゃん!」

 「迷子ってことかい!?それなら僕達に任せてくれ!」

 「お前と居るとよく迷子に会うな…」


 猫耳女の要求をすんなり聞き通したクロ。他のメンバーも異論はないので、とりあえず猫耳女の主人とやらを探すことに。


 「君はこの辺りで逸れちゃったの?」

 「そうですにゃ!だから近くにご主人様が居ると思いますにゃ!」

 「にゃ…?」


 未だに不思議な語尾への適応をしていないハクエが猫耳女の発言の度フリーズしていた。 

 無論こちらもおかしな言葉遣いに疑問は尽きない。


 「なぁハクエ。ここには猫耳の生えた人間でも生息しているのか。」

 「まさか。というかどこの地域にも居ませんし、地球にだって居ませんよ!」

 「それじゃあ、あれは作り物というわけか。」


 

 物知りなハクエがそういうのだから、きっと猫耳の生えた人間など生息していないのだろう。


 「ならば、趣味ということかもしれん。」

 「趣味ですか?あの恥ずかしい語尾と格好が…?」

 「あぁ。その可能性が高い。」

 「信じ難いですね…」

 「失礼な物言い聞こえてますにゃ!!せめて小声で言ってほしいですにゃ!!」


 ハクエとセイジの話し声は、猫耳女へしっかり聞こえていたらしく苦言を呈された。



 足場の悪い岩の上を歩き続ける一行。周囲は石が積み上がっており、見晴らしはあまり良くない。

 「ここら辺は特にゴツゴツしているから気をつけてね。」

 「はいですにゃー!」

 

 クロの忠告を受けつつスイスイ進む猫耳女。見た目にそぐわず意外とタフなようだ。

 それに対してセイジはというと、


 「オメェばてんの早すぎだろ!」

 「こ、これでも長く、持った方だ。」

 

 既に体力尽き気味な彼はふらふら頼りなく歩いていた。足場の悪い場所では気力だけでなく、体力も無駄に失われてしまうのだ。

 ケイヤの言葉に対応するのでさえ、一苦労といったところだ。


 

 「とりあえず、そろそろ休もうか。」

 「あ、あぁ。そこの、猫耳女も、つ、疲れてるだろうし、な、」

 「偉そうな奴だにゃ!?」

 


 ヘトヘトのセイジをみかねたクロの提案により休むこととなった一行。

 やや開けた場所へ移動して、各々なるべく座り心地良さげな平たい石に腰掛ける。


 「にゃっ!大きい石ですにゃー。みーはここに座りますにゃ!」

 「あ、そこは、」

 「?どうしたんですにゃ?わっ!」



 大きな石に腰掛けへいった猫耳女。しかし、彼女の姿を見てクロは何かを言いかけた。


 何を言いかけたかは直ぐにわかることとなった。恐らく、そこは座らないほうが良いと続けようとしたのだろう。


 

 何故なら猫耳女が腰掛けた石は、人の振動を感知した途端に動き出したからだ。



 「にゃにゃにゃ、にゃんですかこれー!?」

 「石ゴーレムですね。気を抜いていて気づきませんでした…」

 「ああいう風に擬態している時もあるのか。」

 「擬態というより私達が勘違いして座ってしまっただけですね。」

 


 「のんびり話してないで助けて下さいですにゃー!!」

 立ち上がった巨大な石ゴーレムの肩に必死にしがみつく猫耳女。を他所に、石ゴーレムについて話し合うハクエとセイジ。

 2人はのんびり猫耳女を見上げていた。



 「助けてやるから喚くんじゃねぇ!」

 先陣切ってケイヤが剣を持って大振りする。


 「おい、クロ!頼むぜ!」

 「分かった!フラー!」


 ケイヤの頼みにクロが呼応する。何かと思うと、クロは杖のダイヤルを回して魔法を使い石を浮かせていた。


 

 浮かせた石に飛び移ったセイジは足場を利用して石ゴーレムの関節を裂いていく。

 それにより石ゴーレムは徐々にバランスを崩していき、肩にしがみつく猫耳女が振り落とされそうになる。



 ケイヤとクロは石ゴーレムの対処をしている。ここで動けるのはクロとハクエのみであった。



 「落ちる!落ちるにゃー!もう駄目だにゃー!」

 「安心しろ!下には俺が居る!」

 「一番不安な奴ですにゃー!あっ、もう限界にゃ…」



 叫ぶ猫耳女のしがみつく力は尽きてしまう。下に居るのは自身より体力のないセイジであった。

 何やら得意げに整えた茶髪を靡かせているが不安しかない。



 「にゃーーーー!!」

 「ぐっ、」



 だが、不安とは裏腹にセイジは落ちる猫耳女をキャッチして事を終えれた。



 「お、俺の、腕が、」

 「まずはみーの心配をしてほしいですにゃ!!」

 「た、体重を、減らした方が、い、良いんじゃないか。」



 「これでもかなり少ないほうですにゃ!!」

 「流石に失礼ですよセイジ…」



 己の腕を労るセイジ。女性陣2人からは失礼だと断言されてしまう。女性陣とは言うが、デリカシーの無さは性別問わずどうかと思われる筈だ。



 無事石ゴーレムを倒したクロとケイヤも合流してくる。

 当たり前だが、2人とも無傷なようだ。


 「いやー、ホントにありがとうございますにゃ!それじゃ、こんな物騒なところ早く行きましょうにゃ!」


 石ゴーレムにこりごり、といった感じの猫耳女が先頭に立ってこの場を去ろうとする。


 「?おい、尻尾を落としてるぞ。」


 先の衝撃でどうやら猫耳女の後付け尻尾が落ちてしまったらしい。


 「そんな!尻尾が!大丈夫?痛くないのかい!?」


 猫耳女が本当に耳と尻尾を持つキャッツ族、なんていうふざけた種族だと信じて疑わないクロ。

 落ちた尻尾を見て狼狽え出す。



 「にゃっ!?だ、大丈夫だにゃー!いやー、何か少しチクチクしたと思ったんだにゃ。」

 「明らかに気づいて居ませんでしたよね…?」

 「そんなことないにゃー。ほらほら早く行こうにゃー。」



 落ちた尻尾を慌てて付け直し、改めて猫耳女のご主人探しを再会した。


――――――――――――――――――――――――――

 石ゴーレムと接敵してから十数分後、ようやく猫耳女のご主人と思わしき男に出会うことができた。


 「ご主人様ー!」

 「ちっ。」


 その男は舌打ちをしたと思うと、駆け寄る猫耳女の頬を思いっきりぶつ。


 「な、急に何するんですか!?」

 「は?何って勝手にどっかいった馬鹿に教育だよ。」



 突然の行為にハクエは驚き、猫耳女と男の間に入る。クロとセイジも男に対して警戒を強める。

 しかしそれを咎めるのは男でなく、庇われている猫耳女自身であった。


 「へ、平気ですにゃ!何処かへ行ったみーの責任にゃんですから!」

 「……だとしても、気分の良い眺めではない。」



 そう言ってセイジは男を睨む。対する男はというと面倒な連中に出会ったと言わんばかりにため息をつく。


 「はぁ。他所のことに口出すなって教育されなかったわけ?」

 「教育が暴力を正当化して良い理由にはならないと思いますが。」

 「それはお前の主観でしょ。」

 「そうですね。」


 毅然とした態度のハクエに男は苛立ち始める。かと思うと、疲れていたのか付近の石に座る。

 「そうですねって、なら突っ込んでこないでくれない?」

 「それは無理です。」

 「はぁ。話しにならっ!?」


 再度の溜息。そして男は話を続けようとしたがそれは叶わなかった。

 突如、男の座る石が動いたのだ。


 「な、な、な、何だこれーー!!」

 「石ゴーレムですね。気を抜いていて気づきませんでした…」

 「………この下り、十数分前にやったな…」

 「確かにそうですね。」

 


 石ゴーレムの肩に乗ってしまった男をよそに、冷静なハクエとセイジ。



 「のんびり話してないで助けろーー!!」

 「そのセリフも十数分前に聞いたな…」

 「ですね。」



 「助けっから大人しくしてろよ!」

 引き続きのんびり話す2人と助けに行くケイヤとクロ。

 無事に男の救出に成功する。


 「何なんだここ!早く帰るぞ来い!」

 うんざりといった様子の男は強引に猫耳女の腕を引いてこの場から立ち去ろうとする。

 しかし、セイジはそれを止めにかかる。


 「待て。」

 「まだなんかあるの?」

 


 彼はどうしても猫耳女が気がかりで仕方なかった。彼女は帰ったあと、また暴力に晒されるのではないか、と。

 他の仲間も同じ考えだと思っていた。だが、そうではなかったらしい。



 「セイジ、ここからは他所の家のことだろ。無闇に首突っ込むこたぁねぇ。」

 静かなケイヤの指摘。これによりクロやハクエの引き止めるべきという思考もやや揺らぐ。

 最年長である彼の言葉の力なのだろうか。



 「赤髪の人の言う通りですにゃ。みーのことは心配しなくて良いですにゃ。」

 追い打ちを掛けるように猫耳女までも言葉を続けてくる。

 「だが!」

 「………。」

 



 それでも、セイジは譲ろうとしなかった。駄々をこねる彼に思うことがあった猫耳女は口を開く。


 「ご主人様、少しお時間頂きますにゃ。」

 「……はぁ。なるべく早くしろ。」

 「はいにゃ。」



 男と話しをした猫耳女はセイジに近づくき、話しをしたいといってその場から少し離れる。

 皆から離れたかと思うと、開口一番猫耳女は低い声を出す。



 「さっきから何のつもり?」

 「な、何のつもりとは…?」

 「そのままの意味。私を引き留めて君に何の利があるわけ?善行でも積んでるつもり?」


 あまりの変わりように驚き、咄嗟に声がでない。

 自分より背の低い彼女は、見た目にそぐわず迫力を感じさせた。



 見上げてくる彼女は睨み続ける。

 「私とあの人はギブアンドテイクの関係なの。書面で証明されてる、確実な関係。それを勝手に有耶無耶にされたら迷惑。分かった?」

 「……………あぁ。」

 「それじゃ、戻るよ。」



 皆の元へ戻った時には、猫耳女は前と同じ様子であった。文字通り、猫を被っていた。

 「そゆことでみにゃさん、ありがとうございましたにゃー!」



 元気に手をふって2人は去っていったのだった。

 戻ったセイジは誰の目でも分かるくらい落ちこんでいたらしい。それを勘ぐった仲間が言葉を掛ける。



 「まぁまぁ。女は星の数ほどいるぞ?」

 「………何か勘違いをしてないか。」

 「大丈夫ですよ。分かってます。」

 「いや、分かってない。」


 「…セイジ、景気づけに何処か出掛けよう!」

 「お前まで思い違いを…」


 セイジが猫耳女に振られたと思った一行は各々励ましつつ帰路についたのだった。

 


 妙な勘違いに納得いかないセイジは帰り道、必死に否定をしながら帰るのだった。

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